昭和産業株式会社の特許第6862256号は、パンなどの原料に使用する小麦加工品に関し、栄養素のある小麦外皮を含有していても、外皮特有のエグミ及び臭みが少なく、甘みを有する小麦加工品に関する。異議申立てされ、物に関する請求項は取消になったが、製造方法に関する請求項はそのまま維持された。
昭和産業株式会社の特許第6862256号“小麦加工品の製造方法及び小麦加工品”を取り上げる。
特許第6862256号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである(
【請求項1】
水分含有量を20~50質量%に調節した小麦を加熱し、
小麦加工品に含まれる糊化した澱粉の含有量を5~50質量%、
水分含有量を15質量%以下に調整し、
水分含有量を調節する前の小麦の灰分が、乾物換算質量で、
原料小麦に含まれる灰分100に対して70~100である、
小麦加工品の製造方法。
【請求項2】~【請求項9】
本特許明細書によれば、“従来の小麦外皮含有素材は、エグミや臭みが強かったり、焙煎風味が付与されて自然な甘みが感じられない場合があった”が、“外皮の除去率を高めて外皮含有量を低減させればエグミや臭みは抑えられるが、外皮に含まれる栄養素を十分に摂取することができない”と記載されている。
そして、“本発明は、外皮の除去を最小限に抑えつつ、外皮特有のエグミ及び臭みが少なく、甘みを有する小麦加工品を提供することを主目的”としていると記載されている。
この目的を達成するために検討した結果、“水分含有量が特定の範囲となるように吸水させた小麦を特定条件で加熱することにより、外皮を有しつつも外皮特有のエグミ及び臭みが抑えられ、且つ、小麦本来の甘みを有する小麦加工品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った”と記載されている。
本特許発明の小麦加工品は、“粒状であってもよく、粉砕処理により粉末状としてもよい。粒状の小麦加工品は、そのまま又は水や湯で戻して食してもよく、食品の原料や食品のトッピング素材として用いてもよい。粉末状の小麦加工品は、食品の原料として好適であ”ると記載されており、本特許発明の小麦加工品を含む食品として、“パン類、菓子類、麺類、皮類、お好み焼き、たこ焼き”が例示されており、“これらの中でもパン類又は菓子類が好ましい”と記載されている。
公開公報(特開2018-174808)に記載されている特許請求の範囲は、以下の通りである( https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2018-174808/058AC2E24038704DB9EC7568AFD4B6B60A873419B55583EA108337065DE1F607/11/ja)
【請求項1】
水分含有量を20~50質量%に調節した小麦を加熱し、
小麦加工品に含まれる糊化した澱粉の含有量を5~50質量%、
水分含有量を15質量%以下に調整する
小麦加工品の製造方法。
【請求項2】~【請求項10】 省略
請求項1について、特許公報と比較すると、小麦の灰分が数値限定されて、特許査定を受けている。
特許公報の発行日(2021年4月21日) の約半年後(2021年10月19日)、一個人名で異議申立てがなされた(異議2021-701000 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6862256/058AC2E24038704DB9EC7568AFD4B6B60A873419B55583EA108337065DE1F607/15/ja)。
審理の結論は、以下であった。
“特許第6862256号の請求項8及び9に係る特許を取り消す。
同請求項1ないし7に係る特許を維持する。“
請求項1~7に係る発明は、製造方法の発明であるが、請求項8及び9に係る発明は、物の発明(小麦加工品及び小麦加工品を含む穀粉組成物)であった。
異議申立て後、請求項8及び9に対して取消理由通知書(2022年3月4日付け)が送付された。取消理由は、以下のようであった。
“請求項8、9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内で電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証を参照すれば、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であ”り、新規性を欠如している。
甲第1号証:特開2008-119627号公報
甲第2号証(技術常識を示す文献):日本食品標準成分表2015年版(七訂)、第2章 1 穀類、1/5 頁
上記取消通知に対して、特許権者は応答しなかったため、請求項8、9に係る発明は取り消しとなった。
以下、本特許請求項1に係る発明に絞って審理内容を紹介する。
申立人の異議申立ての理由のうち、請求項1に係る申立理由は、サポート要件違反であった。
申立人が主張したサポート要件違反の理由は、以下であった。
本件特許明細書の記載からは、”小麦の加熱に際して水分量が不充分な場合には、澱粉の糊化及びエグミ及び臭みの低減が進まないと解される。
よって、前記実施例での水蒸気加熱又は過熱水蒸気加熱の条件以外の加熱条件で加熱処理した小麦加工品が、エグミ及び臭みの低減や甘みといった本件発明の課題を解決できるものであるとは認められない。
したがって、小麦の加熱の手段及び加熱の条件について特定されていない本件発明1に係る小麦加工品の製造方法は、本件発明の課題を解決できない範囲を含むものである。“
審判官は、上記主張に対して、以下のように判断した。
本件特許明細書には、
“「水分含有量が特定の範囲となるように吸水させた小麦を特定条件で加熱することにより、外皮を有しつつも外皮特有のエグミ及び臭みが抑えられ」ること”、及び
“「小麦の水分含有量が20質量%未満であると、次工程で加熱する際に小麦に含まれる澱粉の糊化が進みにくく、外皮のエグミ及び臭みが十分に低減されない場合がある」こと”が記載されている。
そして、本件特許明細書には、
“小麦の加熱手段は特に限定され”ないこと、及び
“加熱の温度及び時間は、加熱後に得られる小麦加工品の糊化した澱粉の含有量及び水分含有量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。・・・乾燥工程を設ける場合、小麦加工品の水分含有量を15質量%以下に調整できれば、乾燥の手段は特に限定されない”と記載されている。”
これらの特許明細書の記載から、審判官は、
“所定の水分量に調節した小麦を加熱し、小麦加工品に含まれる所定の糊化した澱粉及び水分含有量に調整した場合であっても、加熱手段及び加熱条件の違いによって、外皮特有のエグミ及び臭みが少なく、甘みを有する小麦を得ることができないとする客観的な理由はない”と判断した。
そして、審判官は、“加熱手段及び加熱条件に関係なく、当業者であれば、本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる”ことから、申立人の主張は採用できない“と結論した。