(55)特許を巡る争いの事例;チキンエキス含有スープ特許
キッコーマン株式会社特許第6230043号は、醤油が配合された「チキンエキス含有スープ」において、醤油含有成分の濃度を調整することによって、醤油によるチキンエキスの風味抑制を改善する特許。競合のヤマサ醤油は異議申立てしたが、主張は退けられ、そのまま権利維持された。
キッコーマン株式会社の特許第6230043号「チキンエキス含有スープ」を取り上げる。
特許第6230043号の特許請求の範囲は、以下の通りである。
(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6230043/40E4817012C709590184A3875B07D01E)。
【請求項1】
食塩濃度1w/v%当たりの、
4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が1.0ppm以下及び
2-フェニルエタノールの濃度が0.05~1.5ppmである
チキンエキス含有スープ。
【請求項2】
本醸造醤油を含有する請求項1に記載のチキンエキス含有スープ。
(【請求項3】以下省略)
「4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン」(HEMF)と2-フェニルエタノールは、醤油の代表的な香気成分で、発酵が関与して生成される成分である
(醤油の香味成分HEMF https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/101/3/101_3_151/_pdf
しょうゆ香気成分の簡易濃縮分析 https://www.gls.co.jp/technique/app/detail.php?data_number=GT027)。
本特許の目的は、醤油が配合されたチキン含有スープにおいて、「チキンエキスの風味が抑えられず、コクが強いチキンエキス含有スープを得ること」と記載されている。
その説明として、「醤油は、旨味やコク味を食品に付与できる調味料であるが、上記醤油特有の醸造香を持っているため、チキンエキス含有スープに醤油でコクを付けようとすると醤油の醸造香でチキンエキスの風味が抑えられるという問題があった」と記載されている。
そして、解決方法として、
「チキンエキス含有スープに添加する本醸造醤油は、全窒素濃度1.0w/v%当たりのHEMF濃度が15.0ppm以下の本醸造醤油を使用することで、チキンエキスの風味が抑えられず、コクが強いチキンエキス含有スープが得られる」と説明されている。
公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである (特開2015-12811
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H27012811/F706D0AE86226468AF4FE21B8A452B01)
【請求項1】
食塩濃度1w/v%当たりの、
4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンの濃度が
1.0ppm以下及び
2-フェニルエタノールの濃度が0.05~1.5ppm
であるチキンエキス含有スープ。
【請求項2】
本醸造醤油を含有する請求項1に記載のチキンエキス含有スープ。
(請求項3以下、省略)。
請求項1及び請求項2は、拒絶理由なく、特許査定されている。
特許公報発行後、ほぼ半年が経過して、同じ醤油メーカーであるヤマサ醤油株式会社から、異議申立てがなされた(異議2018-700388
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JP14H30700388/3EBF2E6C9308C1776454D97D7EFD455E)。
審理の結論は、「特許第6230043号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。」であった。
特許異議申⽴⼈のヤマサ醤油は、進歩性欠如と記載不備(特許法第36条違反)を主張した。
進歩性欠如については、ヤマサは出願前公知文献3件を提出し、当業者が容易に発明できたと主張したが、審判官は、公知文献には、2-フェニルエタノールの濃度に着⽬し、その濃度を調整する記載はないとして、主張を退けた。
また、記載不備については、ヤマサは、発明の詳細な説明に開⽰された内容を拡張ないし⼀般化しており、また、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための⼿段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求していると、
サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)を主張したが、これも審判官に採用されなかった。