日本製粉株式会社の特許第6476485号は、炒めたスパゲッティ麺にナポリタンソースが和えてある冷凍麺食品の製造方法に関する。進歩性欠如、記載不備(サポート要件、実施可能要件)などの理由で異議申立てされたが、異議申立人の主張はいずれも採用されず、権利維持された。
日本製粉株式会社の特許第6476485号『冷凍ソース和え炒め麺及びその製造方法』を取り上げる。
特許第6476485号の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6476485/9D841534611638FE82C0AA6F952196995A92263E875C00BDD7F9E54B0A8B4DE0/15/ja)。
【請求項1】
以下の工程、
(1)茹で麺を炒める工程、
(2)(1)で得た炒め麺を茹で麺200質量部に対して25~100質量部のソースと和える工程、
(3)(2)で得たソース和え炒め麺を真空冷却する工程、
(4)(3)で得た冷却したソース和え炒め麺を冷凍する工程を含み、及び
(5)前記工程(1)と(2)の間に茹で麺200質量部に対して5~25質量部の水分を添加して更に麺を炒める工程を含む、
冷凍ソース和え炒め麺の製造方法であって、
茹で麺がスパゲティであり、ソースがナポリタンソースである、前記製造方法。
【請求項2】以降、省略
本特許明細書には、本特許発明における「ソース和え炒め麺」とは、“ソースが和えられており、かつソースが和えられる前に炒め調理がなされているものをいい、必要に応じて野菜、肉などの具材を含む。例えば、ナポリタン、ペペロンチーノ、焼きそば、焼きうどん、焼きビーフン、そうめんチャンプルー等が挙げられる”と記載されている。
従来の冷凍ソース和え炒め麺の製造方法について、“単にソース和え炒め麺を製造した後に得られたソース和え炒め麺を冷凍した場合には、冷凍工程中に麺にソース中の水分が吸収されること、冷凍保存中に水分の損失が起こることなどにより、解凍調理後の麺類の食感が水分が少ないパサパサしたものとなるという問題点があった”と記載されている。
本特許発明は、“茹で麺を炒める工程、炒め麺をソースと和える工程を含む方法でソース和え炒め麺を製造し、ソース和え炒め麺を真空冷却後に冷凍すること”に特徴がある。
本特許を用いることによって、“麺とソースが馴染んで一体感があり、また麺のプリッとした弾力、適度な柔らかさ、歯ごたえの調和が優れ、麺に香ばしさと炒めた風味のある冷凍ソース和え炒め麺を製造することができる”と記載されている。
なお、日本製粉株式会社は、“オーマイ”などのブランド名で冷凍麺事業を展開している(https://www.nippn.co.jp/products/frozen/index.html)。
公開公報(特開2016-42824)の特許請求の範囲は、以下の通りである
【請求項1】
以下の工程を含む冷凍ソース和え炒め麺の製造方法。
(1)茹で麺を炒める工程、
(2)(1)で得た炒め麺をソースと和える工程、
(3)(2)で得たソース和え炒め麺を真空冷却する工程および
(4)(3)で得た冷却したソース和え炒め麺を冷凍する工程
【請求項2】以降省略
ソースを和える条件、製造工程の追加、及び茹で麺とソースの種類の限定がなされ、特許査定されている。
特許公報発行日(平成31年3月6日)のほぼ半年後(令和1年8月29日)、一個人名で異議申立てがなされた(異議2019-700683、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2014-169300/9D841534611638FE82C0AA6F952196995A92263E875C00BDD7F9E54B0A8B4DE0/10/ja)。
結論は、以下のようであった。
“特許第6476485号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。”
異議申立人は、進歩性欠如(甲1を主引用文献とした場合、及び甲2発明を主引用文献とした場合)ならびに記載要件違反(サポート要件、実施可能要件など)を主張した。
甲1:「HACCPマニュアル 生めん・半生めん・ゆでめん・むしめん・冷凍めん・調理めん 生めん類・調理めんのHACCPプラン編」、財団法人食品産業センター、全国製麺協同組合連合会、平成13年3月、122~123頁
甲2:実願昭57-87094号(実開昭58-189791号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和58年12月16日特許庁発行)
以下、本特許の請求項1に係る発明(本件特許発明1)についての審理結果を述べる。
甲1発明を主引用文献とした進歩性欠如についての審判官の判断は、以下のようであった。
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、“両発明は、「以下の工程、(1)麺を炒める工程、(2)(1)で得た炒め麺をソースと和える工程、(3)(2)で得たソース和え炒め麺を真空冷却する工程を含む、ソース和え炒め麺の製造方法。」である点で一致”する。
しかし、以下の相違点1-4などの点で相違する。
“相違点1-4:本件特許発明1は、「(5)前記工程(1)と(2)の間に茄で麺200質量部に対して5~25質量部の水分を添加して更に麺を炒める工程」を含むのに対して、甲1発明には、炒める工程とソース・調味料と混合する工程の間に水分を添加して更に麺を炒める工程について記載されていない点。”
甲5及び甲6には、調理時に少量の水を加えて炒め、“調理後すぐ食べる一般的なスパゲティの調理方法”が記載されているが、“調理したものを冷凍することに関しては、何ら記載ないし示唆されていない。”したがって、“相違点1-4の工程のために、甲5及び甲6に記載された技術的事項を適用する動機付けを認めることはできない”。
さらに、本件特許発明を用いることによって奏される効果(食感、炒め感、食味いずれも非常に良好)は、甲1発明及び甲5及び甲6の記載からは、当業者が予測できない格別顕著な効果である。
以上の点などから、本件特許発明1は、甲1発明を主発明とし、その他の発明を組み合わせたとしても“当業者が容易に発明できたものとはいえない”と結論された。
甲5:“さてと...めしにするか”,[online],平成20年9月8日,[令和1年8月27日検索],インターネット<URL:http://satemesi.seesaa.net/article/388320119.html>
甲6:“マ・マー ゆでスパゲッティ・ナポリタンnapo19(2012/08/27)”,[online],平成24年8月27日,食ベログ,[令和1年8月27日検索],インターネット<URL:https://tabelog.com/rvwr/000073138/diarydtl/77398/>
甲2発明を主引用文献とした進歩性欠如についての審判官の判断は、以下のようであった。
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、“両発明は、「以下の工程、(1)茹で麺を炒める工程、(2)(1)で得た炒め麺をソースと和える工程、(4)ソース和え炒め麺を冷凍する工程を含む、冷凍ソース和え炒め麺の製造方法であって、茹で麺がスパゲティであり、ソースがナポリタンソースである、前記製造方法。」である点で一致する。”
しかし、以下の相違点2-3などの点で相違する。
“相違点2-3:本件特許発明1は、「(5)前記工程(1)と(2)の間に茄で麺200質量部に対して5~25質量部の水分を添加して更に麺を炒める工程」を含むのに対して、甲2発明には、(1)と(3)の間に水分を添加して更に麺を炒める工程について記載されていない点。”
甲5及び甲6には、調理時に少量の水を加えて炒め、“調理後すぐ食べる一般的なスパゲティの調理方法”が記載されているが、本特許発明は、“単にスパゲティ等の麺類を調理するだけでなく、「冷凍ソース和え炒め麺の製造方法」に関するもので”あって、甲5及び甲6には、調理したものを真空冷却することに関しては、何ら記載ないし示唆されていない。”
さらに、本件特許発明を用いることによって奏される効果(食感、炒め感、食味いずれも非常に良好)は、甲1発明及び甲5及び甲6の記載からは、当業者が予測できない格別顕著な効果である。
以上の点などから、本件特許発明1は、甲2発明を主発明とし、その他の発明を組み合わせたとしても“当業者が容易に発明できたものとはいえない”と結論された。
サポート要件及び実施可能要件についての審判官の判断
サポート要件については、本件特許発明1~6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、本件特許発明1~6の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであると判断した。
また、実施可能要件については、本件特許明細書の発明の詳細は説明の記載は、本件特許発明1~6を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであると判断した。
サポート要件及び実施可能要件についての異議申立人の主張はいずれも採用されなかった。