特許を巡る争い<50>昭和産業・たこ焼き粉特許

昭和産業株式会社の特許第6762730号は、小麦粉に特定の大麦粉を配合させた、食感や調理特性が改善された“たこ焼き粉”に関する。進歩性欠如を理由に異議申立てされたが、申立人の主張は認められず、権利維持された。

昭和産業株式会社の特許第6762730号“たこ焼粉、及びたこ焼の製造方法“を取り上げる。

特許第6762730号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りであるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6762730/554C1C5FD0EF70F95A058DFC8417384312200ED336F75F72A8F99CE9CF3D0348/15/ja)。

【請求項1】

小麦粉及び大麦粉(レーザー回折型粒度分布測定による平均粒子径が20μm以下であり、正規分布又は正規分布に近い粒度分布を示すものを除く)を含有する原料粉を含むたこ焼粉であって、

前記大麦粉の含有率が、前記原料粉の総質量に基づいて15~70質量%であることを特徴とするたこ焼粉。

【請求項2】

小麦粉及び大麦粉(レーザー回折型粒度分布測定による平均粒子径が20μm以下であり、正規分布又は正規分布に近い粒度分布を示すものを除く)を含有する原料粉であり、

前記大麦粉の含有率が、前記原料粉の総質量に基づいて15~70質量%である原料粉、並びに水を含む生地材料を混合してたこ焼用生地を調製する工程、及び

前記たこ焼用生地を、必要に応じて具材と共に焼成する工程を含むたこ焼の製造方法。

【請求項3】~【請求項4】 省略

明細書には、本特許発明の課題は、

“たこ焼の内部にとろみを付与するため、生地に含まれる水の量を多くした場合であっても、具材の種類や量、調理者の技量に係わらず、表面がカリッと香ばしく、内部はとろみがあり、滑らかで口溶けが良い食感で、焼成時の成形性、及び焼成後の保形性に優れるたこ焼を一定の品質で得られる上、

短時間で焼成、製造することができるたこ焼粉、及びたこ焼の製造方法を提供することにある“と記載されている。

そして、“ 本発明者らは、数多くの材料をたこ焼粉に配合して鋭意検討した結果、原料粉として大麦粉を所定量配合することで、上記課題を解決できることを見出した”と記載されている。

公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2017-147956、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2017-147956/554C1C5FD0EF70F95A058DFC8417384312200ED336F75F72A8F99CE9CF3D0348/11/ja)。

【請求項1】

小麦粉及び大麦粉を含有する原料粉を含むたこ焼粉であって、

前記大麦粉の含有率が、前記原料粉の総質量に基づいて10質量%超、100質量%未満であることを特徴とするたこ焼粉。

【請求項2】

小麦粉及び大麦粉を含有する原料粉であり、前記大麦粉の含有率が、前記原料粉の総質量に基づいて10質量%超、100質量%未満である原料粉、

並びに水を含む生地材料を混合してたこ焼用生地を調製する工程、及び

前記たこ焼用生地を、必要に応じて具材と共に焼成する工程を含むたこ焼の製造方法。

【請求項3】~【請求項4】 省略

請求項1についてみると、大麦粉の平均粒子径と粒度分布の限定、及び大麦粉の含有率の数値範囲を狭めることによって、特許査定を受けている。

特許公報の発行日(令和2年9月30日)の約半年後(令和3年2月12日)に、一個人名で特許異議の申立てがなされた(異議2021-700159、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-031961/554C1C5FD0EF70F95A058DFC8417384312200ED336F75F72A8F99CE9CF3D0348/10/ja)。

審理の結論は以下のようであった。

特許第6762730号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。

異議申立人は、以下の甲第1号証~甲第3号証を証拠として提出し、請求項1~4に係る特許は、”甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである”として、進歩性欠如を主張した。

甲第1号証:特開2008-118943号公報 (https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2008-118943/7D560770812C17EB1969E00C3E436EE64B037B58530AB6466F0757A2F4FB48F7/11/ja)

甲第2号証及び甲第3号証は省略。

以下、本特許請求項1に係る発明(本件特許発明1)の審理に絞って紹介する。

審判官は、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明(甲1発明)とを対比して、以下の一致点と相違点を認めた。

一致点;“両者は、小麦粉及び大麦を粉砕したものから得られるものを含有する原料粉を含むものであって、大麦を粉砕したものから得られるものの含有率が、前記原料粉の総重量に基づいて15~70質量%の範囲にある点”

相違点(1-1):大麦を粉砕したものから得られるものが、

本件特許発明1では「大麦粉(レーザー回折型粒度分布測定による平均粒子径が20μm以下であり、正規分布又は正規分布に近い粒度分布を示すものを除く)」であるのに対し、

甲1発明では「圧扁大麦をイクシードミルを用いて粉砕回転数19800rpmで粉砕して得た大麦粒粉砕物を空気分級することにより得られた、

目開き150μより大きく600μ以下のサイズを有する分級品、

目開き106μより大きく150μ以下のサイズを有する分級品、

目開き53μより大きく106μ以下のサイズを有する分級品、

または目開き53μ以下のサイズを有する分級品のいずれか」である点

相違点(1-2);原料粉を含むものが、

本件特許発明1では「たこ焼粉」であるのに対し、甲1発明では「ミックス」である点

上記相違点(1-1)について、審判官は、以下のように判断した。

1.甲1発明における「分級品」は、「圧扁大麦」を粉砕して得られた大麦粒粉砕物を空気分級することにより得られ、目開き53μより大きい分級品は”βグルカン及び不溶性食物繊維を極めて高濃度に含有”しているのに対し、

目開き53μ以下のサイズを有する分級品」は、”目開き53μより大きい分級品を除いたβグルカン及び不溶性食物繊維を極めて低濃度で含む残余物である。”

2.一方、“本件特許発明1における「大麦粉」は”、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、

「大麦を適当な製粉方法により粉状に調製したもの」のうち「レーザー回折型粒度分布測定による平均粒子径が20μm以下であり、正規分布又は正規分布に近い粒度分布を示すものを除く」ものと解される”。

したがって、“両者は、当業者に異なる物として理解されるものといえる。”

3.甲1には、大麦粒粉砕物を空気分級することにより得られた分級品ではない大麦粉そのものを小麦粉に添加して「ミックス」とすることについての記載はなく”、

甲2の記載、及び甲3の記載を参酌しても”、甲1発明における大麦粒粉砕物の「分級品」を“「大麦粉(レーザー回折型粒度分布測定による平均粒子径が20μm以下であり、正規分布又は正規分布に近い粒度分布を示すものを除く)」に変更する動機づけを見出すことはできない。

4.本件特許発明1の効果は、”「具材の種類や量、調理者の技量に係わらず、表面がカリッと香ばしく、内部はとろみがあり、滑らかで口溶けが良い食感で、焼成時の成形性、及び焼成後の保形性に優れるたこ焼を、一定の品質で効率良く製造することができる。」(中略)という効果を奏するものと認められる。”

しかし、甲1~甲3には、”本件特許発明1の効果に関する記載はなく、甲1~甲3の記載を検討しても、本件特許発明1による効果を当業者の予想し得たものとする根拠を見出すことはできない。したがって、本件特許発明1の効果は、当業者の予想できない顕著な効果であると認められる。

以上の理由で、審判官は、

“相違点(1-2)について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明及び甲1~甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない”と結論した。