特許を巡る争い<49>サントリー・炭酸感改善飲料特許

特許第6588224号は、カフェインを含有する炭酸飲料の炭酸感を、カリウムを含有させることで改善する方法に関する。異議申立てされたが、成分量を数値限定する訂正を行うことによって、権利維持された。

サントリーホールディングス株式会社の特許第6588224号 “炭酸感が改善された炭酸飲料”を取り上げる。

特許第6588224号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りであるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6588224/AEE23FDB88ADCCF9D2725B41C7E5B123A712C5D33ABA83F19554A6F2C70A67B6/15/ja)。

【請求項1】

カフェイン及びカリウムを含有する炭酸飲料であって、

当該炭酸飲料100ml当たり、

カフェインを10mg~40mg、及び

カリウムを25mg~50mg、

含有する前記炭酸飲料。

【請求項2】~【請求項4】省略

本特許明細書によれば、本特許発明に係る“炭酸飲料”は、“炭酸ガスを含み、更にカフェインとカリウムを特定量で含有するもの”であり、スパークリング飲料やコーラなどが例示されている。

また、本特許発明は、カフェインを含有する炭酸飲料の開発の過程で、“炭酸飲料のカフェイン含量を高めると、炭酸感が十分に得られないことが判明し”、

特定量のカリウムが、特定量のカフェインと組み合わされた場合、炭酸感が顕著に改善されることを突き止め”、この知見に基づいて、本発明を完成させたと記載されている。

なお、本特許発明における“炭酸感”とは、“飲料の飲用時に炭酸の刺激が感じられることをいう。炭酸感の評価は、以下の実施例で説明する専門のパネラーによる官能試験により行うことができる”と記載されている。

公開公報(特開2016-202128)に記載された特許請求の範囲は、以下の通りであるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-202128/AEE23FDB88ADCCF9D2725B41C7E5B123A712C5D33ABA83F19554A6F2C70A67B6/11/ja)。

【請求項1】

カフェイン及びカリウムを含有する炭酸飲料であって、

当該炭酸飲料100ml当たり、

カフェインを10mg~40mg、及び

カリウムを6mg~50mg、

含有する前記炭酸飲料。

【請求項2】~【請求項5】省略

請求項1に係る発明については、カリウム含有量を限定することによって、特許査定を受けている。

特許公報発行日(2019年10月9日)の約半年後(2020年4月2日)に一個人によって異議申立がなされた(異議2020-700233 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2015-090884/AEE23FDB88ADCCF9D2725B41C7E5B123A712C5D33ABA83F19554A6F2C70A67B6/10/ja)。

審理の結論は、以下のようであった。

“特許第6588224号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。

特許第6588224号の請求項1、2、4に係る特許を維持する。

特許第6588224号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。“

特許異議申立人は、異議申立書において、甲第1~8号証を提出して、新規性欠如、進歩性欠如、記載不備(サポート要件違反、明確性要件、実施可能要件等)を主張した。

これに対して、以下の取消理由通知が通知された。

取消理由1:新規性欠如

“訂正前の本件特許発明1,2,4は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である”

刊行物1:Energizing Black Cherry Flavored Sparkling Juice Drinkの製品情報(https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/2306530/)掲載時期2014年2月,株式会社MINTEL(甲第1号証)

取消理由2:委任省令要件違反(特許法第36条第4項第1号違反)

“本件特許は、訂正前の本件特許発明1~4に係る発明について、【0004】に記載された「本件特許発明の課題」と本件特許発明の「カフェイン」を含有する「炭酸飲料」において、「カリウム」を特定量添加するという「炭酸感改善に係る解決手段」との関係が不明確で、発明の技術上の意義が不明確となって”いる。

取消理由3:サポート要件違反

“本件特許は、訂正前の請求項1~4の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない”

この取消理由通知に対し、特許権者は訂正請求書及び意見書を提出した。

しかし、審判官は訂正拒絶理由通知を通知したため、特許権者は訂正請求書の手続補正を行い、特許請求の範囲は、以下のように訂正され、認められた。

【請求項1】

カフェイン、カリウム、及びナトリウムを含有する炭酸飲料であって、

当該炭酸飲料100ml当たり、

カフェインを10mg~40mg、

カリウムを25mg~40mg、及び

カリウムとナトリウムを合計含量で40mg以下、

含有する前記炭酸飲料。

【請求項2】~【請求項4】省略

なお、【請求項3】は、削除された。

特許公報に記載された請求項1と比較すると、訂正された請求項1では、カリウム含有量の数値範囲の減縮、及びカリウムとナトリウムの合計含量の限定がなされている。

以下、上記の訂正された請求項1に係る発明(本件特許発明1)に絞って、その後の審理結果を紹介する。

まず、上記の取消理由通知の取消理由1(新規性欠如)についての審理結果を紹介する。

審判官は、本件特許発明1と甲1号証に記載された発明(引用発明1)とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

一致点:“「カフェイン、カリウム、及びナトリウムを含有する炭酸飲料であって、

当該炭酸飲料100ml当たり、

カフェインを10mg~40mg、

カリウムを25mg~40mg、

含有する前記炭酸飲料。」“である点。

相違点1:“本件特許発明1は、「カリウムとナトリウムを合計含量で40mg以下」であることが特定されているものの、引用発明1においては、カリウムとナトリウムの合計含量61.29mgである点。”

審判官は、相違点1について、“本件特許発明1と引用発明1のカリウムとナトリウムの合計含量が相違している以上、上記相違点1は、実質的相違点であり、本件特許発明1は、電子的技術情報1に記載された発明とはいえない”として、“本件訂正によって、本件特許発明1,2,4に対する取消理由1は解消している”と結論した。

取消理由2(特許法第36条第4項第1号違反)についての審判官の判断は、以下のようであった。

“カリウムが添加されていない場合のカフェインの増量によっては、基本的に炭酸感の改善はなく、カフェイン入りの炭酸飲料において、炭酸感の向上に問題が存在していることは一応読み取れる。”

“上記カフェイン入りの炭酸飲料における炭酸感の向上という課題に対して、表2全体でみれば、その解決手段として、一定量のカフェインを含有させた場合に、カリウムを一定量含有させることで、炭酸飲料の炭酸感が十分に向上していることが理解できる。”

“特許権者の提出した乙第1号証(実験成績証明書)には、実験Aとして、本件明細書【0026】~【0029】に記載した方法によって得られた炭酸飲料の炭酸飲料の評価結果が示され、本件明細書【0030】に既に示されていた【表2】の結果を補足する結果が示されている。”

“乙第1号証の値は、本件明細書【0030】に既に示されていた【表2】の値の間を埋めるものであり、かつ整合したものである”

そして、審判官は、

明細書中“の記載の一部に不明確な記載はあるものの、本件特許発明の課題と解決手段の関係は、一応明確になっており、発明の技術上の意義も明確であるといえるので、本件の発明の詳細な説明の記載についての取消理由2は解消している”と結論した。

取消理由3(サポート要件違反特許法第36条第6項第1号)についての審判官の判断は、以下のようであった。

“本件特許発明1,2の課題は、【0004】【0005】のとの記載及び本件明細書全体の記載を参酌して、カフェインを含有する炭酸飲料において、炭酸感が改善された、炭酸飲料の提供にあると認める。”

“請求項1には、前記第3のとおり、「カフェイン、カリウム、及びナトリウムを含有する炭酸飲料」において、「当該炭酸飲料100ml当たり」の「カフェインを10mg~40mg」、「カリウムを25mg~40mg」、「カリウムとナトリウムを合計含量で40mg以下」「含有する」することを特定した物の発明が記載されている。”

一方、“発明の詳細な説明には、本件特許発明の特定事項に対応した、カフェイン、カリウム、及びナトリウムを含有する炭酸飲料において、当該炭酸飲料100ml当たり、カフェインを10mg~40mg、カリウムを25mg~40mg、及びカリウムとナトリウムの合計含量が40mg以下、含有する前記炭酸飲料において、

炭酸感の向上が一定程度得られていることが当業者において、理解できる程度に示されているのであるから、

乙第1号証の実験結果も考慮すると、本件特許発明の課題が解決できていると認識できる“。

これらなどの理由で、審判官は、“本件特許発明1,2,4は、発明の詳細な説明に記載されたものといえ、取消理由3は解消している“と結論した。