【39】特許侵害を未然に防ぐための情報提供(1)制度

(39)特許侵害を未然に防ぐための情報提供(1)

特許侵害回避の観点からは、審査段階で侵害回避のアクションを取っておいた方が、一般的には、回避できる可能性は高いと考えられる。

審査段階での侵害回避のアクションとして取り得るのは、情報提供制度の利用である。

情報提供制度の対象となる拒絶・無効理由、情報提供で提出可能な資料、情報提供を行う際の手続、匿名で情報提供した場合の事務処理について説明する。

これまで主に無効資料調査について述べてきたが、審査の過程で先行技術文献の網を潜り抜けて特許査定を受けた特許を潰すことは容易ではない。

特許侵害回避の観点からは、審査段階で侵害回避のアクションを取っておいた方が、一般的には、回避できる可能性は高いと考えられる。

審査段階での侵害回避のアクションとして取り得るのは、後述する“情報提供”制度の利用である。

情報提供制度を利用して侵害回避をする戦術としては、さまざまなものが考えられる。

たとえば、出願人の事業や商品と、特許明細書の詳細な説明や実施例の記載から推測される、出願人が本当に権利化したい技術的範囲と、侵害の可能性がある製品や技術(“イ号”)とを比較し、推測される技術的範囲からイ号が外れるような場合がある。

こうした場合には、必ずしも拒絶査定を目標とする必要はなく、技術的範囲から“イ号”を外させるように誘導させる内容を情報提供するとか、出願人自らが技術的範囲には含まれないと主張させ、“禁反言“によって技術的範囲には含まれないことを確認することを目的とした情報提供もあり得る。

以下、情報提供制度について説明する

(情報提供制度の概要 https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/johotekyo/jyouhou_01.html)。

(1)情報提供制度の対象となる拒絶・無効理由

情報提供制度で提供できる情報としては、新規性欠如(第29条第1項)、進歩性欠如(第29条第2項)、実施可能要件違反(第36条第4項第1号)、サポート要件違反(第36条第6項第1号)などに係る情報を提供することができる。

(2)情報提供で提出可能な資料

刊行物又はその写し、特許出願又は実用新案登録出願の明細書又は図面の写し、実験報告書などの証明書類など。

異議申立や無効審判請求と比較しての特徴として、以下の4点が挙げられる。

①書面による情報の提供のみ

「書面」に該当しないもの(例えば録音テープ、ビデオテープ)の提出はできない。

②情報提供ができる時期

特許出願・実用新案登録出願がなされた後は、いつでも情報提供可能。

特許付与後でも情報提供可能(付与後の情報提供の意義については、以下のリンクを参照ください https://www.jpo.go.jp/faq/yokuaru/shinpan/document/index/07.pdf)。

③情報提供ができる者

誰でも情報提供可能。利害関係者でなくても可能であるし、匿名でも可能。

④特許庁での手数料などの料金

情報提供をする際の手数料は不要。書面提出でも電子化手数料は不要。

実際に情報提供を行う際の手続は、以下のようである。

https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/johotekyo/jyouhou_02.html

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/kaitei/document/H27/11.pdf)。

(1)提出書類

【刊行物等提出書】の様式にしたがって、書類を作成する。匿名で提出する場合は、刊行物等提出書の「【住所又は居所】」及び「【氏名又は名称】」の欄に「省略」と記載。

(刊行物提出書のひな型 https://faq.inpit.go.jp/content/industrial/files/03_5_kankou.pdf

https://elaws.e-gov.go.jp/search/html/335M50000400011_20161001_000000000000000/pict/S35F03801000011-018.pdf

https://jp-ip.com/tools/jpo-template)。

提出する資料に関する注意点については、後述する。

(2)提出方法・宛先

「〒100-8915 東京都千代田区霞が関3-4-3 特許庁長官宛」に郵送、または、特許庁出願課受付窓口への提出。

インターネット出願ソフトによる提出も可能(http://www.pcinfo.jpo.go.jp/site/index.html http://www.pcinfo.jpo.go.jp/guide/Content/Guide/PctDo/Patent/Kankobutsu/Doc/DoP_Kankobutsu.htm)。

書面提出とオンライン手続の違いやそれぞれ注意点がある。

①審査官閲読可能までの時間

書面提出した場合には、書面が電子化されるまで、審査官は閲読できない。

②オンライン手続での添付資料

PDFやJPEGイメージを添付して、匿名で提出する場合は注意を要する。

通常、ファイルのプロパティに作成者情報が設定されているので、当該情報を削除するか、作成者情報が設定されないファイル形式に変更して添付する。

”匿名”で提出した場合の、特許庁内での事務処理に関連する部分を引用する

(4. 情報提供に関するQ&A https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/johotekyo/jyouhou_04.html)。

(1)書面の場合

“問)郵送で情報提供を行った場合、郵送に用いられた封筒はデータエントリーされますか?

答) 郵送時使用された封筒のデータエントリーは行われません。“

(2)オンライン手続

①“問)電子出願ソフトを用いた情報提供の場合、匿名で書類を作成しても、オンライン提出時には電子証明書を使用するため、提出時に使用した電子証明書を有する者の氏名が記載された受領書が、その電子証明書を有する提出者宛に届きます。

この受領書は、閲覧の対象になっていますか?

また、閲覧照会やJ-Plat Patの審査書類情報照会において、識別番号や送信に用いられたパソコンを特定するような情報は表示されますか?

答) 受領書は提出者に対しての受領した旨の通知であり、閲覧対象にはなっておりません。

また、閲覧照会やJ-Plat Patの審査書類情報照会においても、識別番号や送信者を特定できるような情報は表示されません。“

②“問) 電子出願ソフトを用いて匿名で情報提供を行った場合、刊行物等提出書は、送信時に使われた識別番号が記載された状態で担当審査官に配布されますか?

答) 送信者の識別番号は、情報提供に関するデータのひとつとして庁内データベースに取り込まれます。ただし、識別番号などの提出者の情報は審査官に配布されず、外部にも提供されません。“

(続く)