特許を巡る争い<17>サントリーホールディングス株式会社・コーヒー飲料特許

サントリーホールディングス株式会社の特許第6329551号『コーヒー脂質含量の少ない乳入りコーヒー飲料』は、コーヒー豆由来の脂質量を減らして、加熱臭を改善した乳入りコーヒー飲料に関する。進歩性欠如と記載不備の理由で異議申立されたが、申立人の主張は認められず、そのまま権利維持された。

サントリーホールディングス株式会社の特許第6329551号『コーヒー脂質含量の少ない乳入りコーヒー飲料』を取り上げる。

特許第6329551号の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6329551/DFF7900024F24157968BFD273C183682A124F598B7F0A28EB5898FFD6EA16695/15/ja)。

【請求項1】

(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有する、高温殺菌済のコーヒー飲料であって、

飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、

パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上、

乳成分の含有量が0.1〜10質量%、

糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である、

上記コーヒー飲料。

(【請求項2】以下は省略)。

本特許明細書によれば、「コーヒー飲料」とは、“コーヒー分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造される飲料製品”のことをさしている。

また、「乳成分」とは、“主に哺乳動物の乳、牛乳及び乳製品”のことを意味し、具体的には、生乳や牛乳、濃縮ホエイ、濃縮乳などの乳製品が例示されている。

(A)パルミチン酸カーウェオールと(B)パルミチン酸カフェストールは、コーヒー豆中に含まれる脂質であり、本特許発明に係るコーヒー飲料は、“飲料中に溶解状態にあるコーヒー脂質の割合が低減されていることを最大の特徴とする”と書かれている。

本発明を用いることによって得られる効果について、“乳成分とコーヒー脂質が混合された状態で高温殺菌を行うと、加熱臭が顕著に強くなる”が、“コーヒー脂質が低減されたコーヒー原料を用い、これを乳原料と混合して高温殺菌を行えば、乳加熱臭が低減され”、“乳成分のコクが付与されたドリンカビリティの高い飲料”が製造できると書かれている。

実施例には、コーヒー脂質を低減する方法として、焙煎コーヒー豆の加圧抽出液を、焙煎コーヒー豆の粉砕物を積層させたカラムに、通液する製造方法が書かれている。

本特許は、2014年9月2日に国際出願された特許である。

公開時の特許請求の範囲は、以下の通りである(国際公開番号WO2015/030253WO-A1-2015/030253 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/WO-A-2015-030253/820E7ED11A35DB8EA4F21DB3E4D0DA6F42553364E7E7A68E086B3C4EEB2F2F82/50/ja

再表2015/030253 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-15-030253/DFF7900024F24157968BFD273C183682A124F598B7F0A28EB5898FFD6EA16695/19/ja)。

【請求項1】

(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有し、

前記パルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量[(A)+(B)]が0.5mg/kg以上6.5mg/kg以下あり、

高温殺菌して製造される乳入りコーヒー飲料。

(【請求項2】以下は省略)。

2016年2月8日に国内移行の手続きがなされ、その後、審査請求、パルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量および比率、乳成分の含有量、ならびに糖類の含有量について数値範囲が限定されて、2018年3月23日に特許査定を受けている。

特許公報は2018年5月23日に発行され、その半年後に、一個人名で異議申立された(異議2018-700944 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6329551/DFF7900024F24157968BFD273C183682A124F598B7F0A28EB5898FFD6EA16695/15/ja)。

結論は、以下の通りであった。

特許第6329551号の請求項1〜6に係る特許を維持する。

異議申立人は、進歩性欠如および記載不備(サポート要件・実施可能要件違反)で取り消しを求めた。

進歩性欠如に関して、異議申立人は、甲第1号証(特開2012-191922号公報、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2012-191922/52ED54A1DC16D497D892AC7110BE3761609605659B55D5F8135731B7BEFFAEF4/11/ja)に記載された発明と、その他の先行技術文献および周知事項に基づいて、本特許は当業者が容易に発明することができたものであると主張した。

審判官は、本特許請求項1に係る発明(本件発明1)と、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)とは、以下の点で一致するとした。

(C)乳成分を含有する、高温殺菌済のコーヒー飲料であって、

乳成分の含有量が0.1〜10質量%、

糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である、

上記コーヒー飲料。

しかし、本件発明1では、以下のような特定があるのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点で相違するとした。

「(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール」含有し、

「飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、

パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上」

“インスタントコーヒーのカーウェオール及びカフェストール”は、コーヒー豆の銘柄や産地の違いによって“含有量や両者の比率が異なること”や、インスタントコーヒーが種々の工程を経て製造されることからすると、”銘柄や製造者が不明な甲第2号証の各インスタントコーヒーが、甲1発明に用いられているインスタントコーヒー(イグアス社製)と同じものであるということはできない。“と判断した。

そして、その他の理由も含め、異議申立人の主張は採用されず、本件発明1は、“当業者が容易に発明をすることができたものではない”と結論された。

また、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)および実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)についても、異議申立人の主張は採用されなかった。