特許を巡る争い<19>サントリーホールディングス株式会社・緑茶飲料特許

サントリーホールディングス株式会社の特許第6392933号『ティリロサイドを含有する飲料』は、ポリフェノール由来の苦味や収斂味を、抹茶等を含有させて抑制した緑茶飲料に関する。進歩性欠如及び記載不備(サポート要件違反、実施可能要件違反)を理由として異議申立されたが、異議申立人の主張は採用されず、そのまま権利維持された。

サントリーホールディングス株式会社の第6392933号『ティリロサイドを含有する飲料』を取り上げる。

第6392933号の特許請求の範囲は、以下の通りである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6392933/2F148750CD123743C62031F616D2BCCF46F168F2F52FD7E5C0B8669B71377B52/15/ja)。

【請求項1】

ティリロサイド0.008~1.0mg/100mL、

抹茶0.005重量%以上0.1重量%以下、

アスコルビン酸又はその誘導体、及びナトリウムを含有する、緑茶飲料。

【請求項2】

飲料中の抹茶の90%積算粒子径が10~80μmである、請求項1に記載の緑茶飲料。

【請求項3】

アスコルビン酸又はその誘導体の含有量が飲料100mLあたり10~80mg、

及び/又はナトリウムの含有量が飲料100mLあたり2~20mgである、

請求項1又は2に記載の緑茶飲料。

本特許明細書によれば、ティリロサイドは、ポリフェノールの一種であり、”バラ科バラ属の植物の果実であるローズヒップ等の植物に含まれていることが知られている”ということである。

しかし、ポリフェノールには、特有の苦味及び渋味を有しているため、飲食物に利用しにくいという問題があり、ティリロサイドを含む飲料においても、ティリロサイドに起因する独特の苦味や収斂味があり、同様な問題があったということである。

本特許発明は、茶葉粉末である抹茶は、ティリロサイド由来の苦味や収斂味の低減効果を有することに基づくものである。

さらに、アスコルビン酸又はその誘導体は、ティリロサイドの苦味や収斂味に対する茶葉粉末の低減作用を相加的又は相乗的に高めることができること、及び、

ナトリウムを含有させることにより、ティリロサイドの苦味や収斂味をより効果的に低減させることができ、さらにアスコルビン酸又はその誘導体と併用した場合には、アスコルビン酸又はその誘導体に起因する酸味を抑制することができることも見出して完成された発明である。

出願時の特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2018-191529、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2018-191529/2F148750CD123743C62031F616D2BCCF46F168F2F52FD7E5C0B8669B71377B52/11/ja)。

【請求項1】

ティリロサイド0.005~1.5mg/100mLと茶葉粉末とを含有する、飲料。

【請求項2】

茶葉粉末の含有量が0.005重量%以上0.5重量%未満である、請求項1に記載の飲料。

【請求項3】

飲料が、茶飲料である、請求項1又は2に記載の飲料。

本特許は、出願後半年経った時点で、上記した特許請求の範囲は、以下のように補正がなされ、同時に早期審査請求された。

【請求項1】

ティリロサイド0.008~1.0mg/100mLと茶葉粉末とを含有する、飲料。

【請求項2】

茶葉粉末の含有量が0.005重量%以上0.3重量%以下である、請求項1に記載の飲料。

【請求項3】

飲料が、茶飲料である、請求項1又は2に記載の飲料。

茶葉粉末が抹茶に特定され、抹茶の含有量の範囲、ならびにアスコルビン酸又はその誘導体とナトリウムの含有が、構成要件に追加して、特許査定を受けた。

本特許は2度の拒絶理由通知を受け、最終的に出願後約1年後に特許査定された。

このため、公開公報(公開日平成30年12月6日)よりも、特許公報の方が先行して発行された(発行日平成30年9月19日)。

特許公報発行日の半年後、一個人名で異議申立された(異議2019-700215、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2018-191529/2F148750CD123743C62031F616D2BCCF46F168F2F52FD7E5C0B8669B71377B52/11/ja)。

審理の結論は、以下のようであった。

“特許第6392933号の請求項1〜3に係る特許を維持する。“

異議申立人は、進歩性欠如及び記載不備(サポート要件違反及び実施可能要件違反)を主張した。

以下、請求項1(本件発明1)の進歩性に関する審理について説明する。

審判官は、本件発明1と甲第2号証に記載された発明(甲2発明)との一致点と相違点を以下のように認めた。

一致点;「ティリロサイド0.02mg/100mL、アスコルビン酸、及びナトリウムを含有する、緑茶飲料。」

相違点;本件発明は、「抹茶0.005重量%以上0.1重量%以下」を含有するのに対し、甲2発明は抹茶を含むことについて特定されていない点。

なお、甲第2号証は、“商品名「-(はじめ)緑茶 一日一本」の消費者庁・機能性表示食品制度届出データベースにおける表示見本、[平成31年3月18日検索]、インターネット<https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc07/hyouji_mihon?hyoujimihonFile=B179%255CB179_hyouji_mihon.pdf>”である。

審判官は、甲2発明は、“緑茶飲料であることから、明記されていなくても、その緑茶飲料の成分の中に、カテキン類を含むものと認められるが、そもそも、甲2発明において、緑茶飲料における不快な味をマスキングしなければならない課題を有しているとは、甲第2号証の全記載を参酌しても、認められない。”とした。

甲第3号証には、“粉砕茶葉を含む茶飲料において、カテキン類の不快味(例えば、カテキン類の苦味、渋味)がマスキングされた茶飲料を製造することが可能であることも記載されている”。

しかし、カテキン類の不快味を含めた緑茶飲料の不快な味をマスキングすることを課題としていない甲2発明(緑茶飲料)において、甲第3号証(粉砕茶葉を含む茶飲料)を組み合わせる動機付けがあると認められないと判断した。

そして、本件発明1は、ティリロサイドに由来する苦味や収斂味が低減された風味の良い飲料を提供するという格別の効果を奏するものである。

したがって、“本件発明は甲2発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。”と判断し、異議申立人の主張を採用しなかった。

なお、進歩性欠如の証拠として、異議申立人は甲第1~3号証を提出したが、甲第1号証は資料の公知日が本特許出願日以降であったことから、証拠として採用されなかった。

記載要件のうち、サポート要件違反について、異議申立人は、以下の3点を主張した。

(1)茶葉は、品種、産地、栽培法、荒茶製造工程などによって含まれる成分が変動するが、本件発明の緑茶飲料の実施例記載は一実験のみであり、本件発明全ての範囲にわたって効果を奏するとはいえない。

(2)緑茶飲料中の非重合カテキンとカフェインの含有量も苦味に影響を与えるが、本件発明の緑茶飲料の実施例記載は一実験のみであることから、非重合カテキンとカフェインの含有量範囲の全てに亘って、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味を低減できる効果を奏することができるとはいえない。

(3)本特許明細書には、「非重合カテキンやカフェインの含有量が多すぎると、飲料の苦味が強くなり、ティリロサイドの苦味や収斂味を低減できたとしても飲用し難いものとなる」旨の記載があり、実施例に記載された「飲みやすい」「飲みにくい」は、ティリロサイドに由来する苦味及び収斂味によるものか、ティリロサイド以外の非重合カテキンやカフェインに由来する苦味や渋味によるものかが不明である。

これらの主張に対して、審判官は、以下の理由から、異議申立人の主張を採用しなかった。

(1)本件発明の実験1では、水にティリロサイドを含有させたものでティリロサイド由来の苦味及び収斂味の有無を確かめており、純粋にティリロサイド自体の苦味や収斂味を測定できているといえる。

(2)本件特許明細書には、茶葉粉末含有によって、ティリロサイドの苦味や収斂味の抑制を確認した例、緑茶飲料について、種々の配合量でティリロサイドや茶葉を用いることで、ティリロサイドの苦味や収斂味の抑制を確認した例が記載されているといえる。

(3)カフェインやカテキン類の緑茶中の含有量は、緑茶抽出時の水の量で調製可能なことは技術常識であり、緑茶として飲みやすいといえる範囲のものは適宜調製可能である。

また、実施例では、水にティリロサイドのみが含まれる場合、水にティリロサイドと茶葉粉末が含まれる場合、緑茶の抽出液にティリロサイドと茶葉粉末が含まれる場合について専門の審査員が評価をしていることから、専門審査員であれば、それらの実験において、ティリロサイドに起因する苦味や収斂味の評価が出来ると理解するのが自然である。

実施可能要件についても、審判官は、本件特許明細書の記載を基に、“本件発明1〜3については、当業者であれば実施ができる程度に発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているということができる。”と判断し、異議申立人の主張は採用されなかった。