特許資料の検索を行う場合、全文検索をしても、図表や写真などの非テクスト情報は検索できない。非テキスト情報も含めて網羅的に検索したい場合は、手めくり調査が必要になる。
特許文献の調査を行う場合、特許分類と検索ワードを適切に選択して検索を行えば、目的
とする無効資料が見つかるという前提に立っている。
検索ワードを用いる場合、全文検索すれば、検索ワードが記載されている特許文献は網羅
的に抽出できると思われるかもしれないが、検索漏れがないとは言い切れない。
検索対象となっているのは”テキスト”情報のみである。
図や表、特に表では文字情報が記載されていても、”テキスト”の形でない場合が多く、
非テクスト情報は検索対象とはならない。
具体例として、特許公報第6313382号『煮物用調理液、煮物の製造方法、及び吹き
こぼれ抑制剤液』を見てみる。
上記特許の特許請求の範囲は、以下である(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6313382/722FE5C6CD9220EF112E6CDB62CF91CC2D7FC058E1296B789C8C7E5A4F8E6F43/15/ja)。
【請求項1】
イモ及び/又はマメを煮る際の吹きこぼれを抑制するための吹きこぼれ抑制剤であって、
架橋デンプン、酸化デンプン、及び難消化性デキストリンからなる群から選ばれた1種
又は2種以上を有効成分とする吹きこぼれ抑制剤。
(【請求項2】省略)
段落番号【0017】には、“架橋デンプン”の説明として、以下のような記載がある。
“架橋デンプンとしては、食用に使用可能なものであればよく、その由来等に特に制限は
ない。例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉等に由
来する架橋デンプンであってよい。また、ワキシー種、ウルチ種、ハイアミロース種など
のように、育種学的あるいは遺伝子工学的な手法により改良された澱粉に由来する架橋デ
ンプンであってよい。
架橋の形態としては、リン酸架橋デンプンやアジピン酸架橋デンプンなどが挙げられる。より詳細には、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプンなどが挙げられる。
これら架橋デンプンは、常法に従い、原料澱粉にオキシ塩化リン、トリメタリン酸塩等の架橋剤によりリン酸架橋を施したり、無水アジピン酸等の架橋剤によりアジピン酸架橋処理を施したりし、必要に応じて、デンプン分子の水酸基を、無水酢酸、酢酸ビニル等でアセチル化したり、プロピレンオキシド等でエーテル化したり、オルトリン酸、オルトリン酸塩等でリン酸化したりすることなどにより得ることができる。
あるいは、市販のものを用いてもよい。“
実施例の記載では、“試験に使用した加工澱粉等の素材”として、段落番号
【0035】【表1】製品名には、【0017】に記載された架橋デンプンの化学名とと
もに、以下のような具体的な市販されている製品名が記載されている。
ファリネックスVA17(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン)
WMS(アセチル化リン酸架橋デンプン)
日食MT-50(アセチル化アジピン酸架橋デンプン)
表1は、テキスト情報ではないので、検索の対象外である。
本特許明細書中に上記製品名が記載された箇所は表1のみで、本文テキストには記載がない。
試しに、表1の上記製品名を検索語として、J-PlatPatで検索してみても、本特許はヒットしない。
したがって、無効資料調査で、“架橋デンプン”の下位概念である上記製品名であるを検索ワードとする検索をしても、本特許はヒットしないので、漏れることになる。
もう一つ、機械検索での検索が難しいのが、図である。
装置や容器の係わる特許発明において、請求項は文言で記載されていても、発明の詳細な
説明には、図や写真を用いている。
具体例として、特許第6467445号『納豆容器』を見てみる。
上記特許の特許請求の範囲は、以下である(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6467445/1E7B82ABC993BF938AFFBF7F383C1E1221D0DABC36D4CA1D178DEACB9530EC7D/15/ja)。
【請求項1】
開口部を含む納豆収容部を有する本体部と、
前記開口部を覆い塞ぐように設けられた蓋部と、
前記蓋部と前記納豆収容部との間に設けられたフィルムと
を備える納豆容器であって、
前記蓋部又は前記本体部にはスリットが設けられ、
前記フィルムが前記スリットを経由して引き出されることが可能に構成され、
前記スリットは幅広部を備え、
前記フィルムは、前記幅広部から前記フィルムのフィルム端部の一部が露出しつつ前記本
体部の本体縁部の上に乗るように配置されており、
前記蓋部が閉じられたまま、前記幅広部から露出している前記フィルム端部によって、
前記フィルムが取り出し可能な納豆容器。
(【請求項2】以下は省略)
図面には、50近くの納豆容器の図が掲載されている。
また、本特許明細書の段落番号【0084】には、容器の図の符号の説明として、納豆容器、本体部、蓋部、ヒンジ部(辺)、納豆、フィルム、開口部、納豆収容部、蓋縁部(縁部)、
第1辺(辺)、第2辺(辺)、第3辺(辺)、角部、第1蓋部、第2蓋部、幅広部、交差
部、中心、の用語が用いられている。
上記特許の無効資料検索において、特許分類をベースとして、請求項や明細書中に記載さ
れた文言で絞り込むという考え方で、目的とする資料を見つけることができればよい。
しかし、容器の技術的特徴を文言だけで理解することは難しく、また、本特許発明に係わ
る技術的特徴が明細書中にすべて文言として記載されているとは限らない。
そうなると、技術的特徴を理解した上で検索しないと漏れが出るリスクがあるし、調査も
ヒットした文献に図の記載があれば、併せてチェックする方が適切である
上記したような非テキスト情報の検索漏れリスクを考慮するならば、検索である程度の数までヒット件数を絞った上で、“手めくり”調査して、目視で目的とする資料の確認が必要になる。
なお、容器など形状に関する発明は、同時に意匠出願されている可能性があり、意匠の観
点から調査する方法が有効な場合もあると思われる。
意匠調査については、画像意匠公報検索支援ツール(https://www.graphic-image.inpit.go.jp/)も活用できる可能性がある。