特許を巡る争い<12>日清食品冷凍株式会社・冷凍うどん特許

日清食品冷凍株式会社の特許第6128755号『冷凍麺』は、加工デンプンやオリゴ糖などを原料に添加することで、解凍後に再度凍結しても、喫食時の麺質の低下が抑制された冷凍麺に関する。異議申立てされたが、複数請求項を1つにまとめ、麺を”うどん”に限定する訂正を行い、権利維持された。

日清食品冷凍株式会社の特許第6128755号『冷凍麺』を取り上げる。

特許第6128755号の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6128755/5EFF0006C16102FBC534053ABD18256CE5C41FE22E7A8D84D32E10C9EDB47902/15/ja)。

【請求項1】

小麦粉、デンプン等を粉体として含有する冷凍麺であって、

ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンを小麦粉10重量部に対して3〜5重量部含み、

アルギン酸プロピレングリコールエステルを粉体1kgに対して0.1〜5g含有する

冷凍麺。

【請求項2】

前記冷凍麺がさらに、オリゴ糖を粉体1kgに対して、5〜100g含む

請求項1に記載の冷凍麺。

【請求項3】

前記オリゴ糖がマルトトリオースである請求項2に記載の冷凍麺。

【請求項4】

前記冷凍麺が流水で解凍して喫食するタイプである請求項1〜3のいずれかに記載の冷凍麺。

本特許明細書によれば、冷凍麺は店頭や家庭又は、輸送等の工程の一部で麺の一部が解凍されるしまうことも多く、家庭で再度冷凍庫で保持されることにより再凍結されることになる。

本特許発明の”冷凍麺”は、『冷凍麺を一旦、解凍した後に緩慢凍結で再凍結した場合においても麺質の低下を抑制した冷凍麺』であると書かれている。

本特許明細書には、“冷凍麺”は、『小麦粉、澱粉等の粉体に塩等を水に溶解した練水を添加して製麺した生麺を製造する。次いで、前記生麺を茹で又は蒸してα化し、水洗、冷却し所定の型枠に入れて凍結』して製造する冷凍麺で、『うどん、そば、中華麺等のいずれも可能である』と書かれている。

また、“ヒドロキシプロピル化デンプン”は、『デンプンをプロピレンオキシドでエーテル化した』加工デンプンであり、『小麦粉と混合して水等を加えて混練するようにして用いる』と、『流通などで解凍が起こった後に緩慢凍結で再凍結した場合においても麺質の低下を抑制できるという効果を奏することができる』と書かれている。

“ヒドロキシプロピル化デンプン”としては、“ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンであることが好ましい”と書かれている。

“アルギン酸プロピレングリコールエステル”は、『昆布等の褐藻類から精製された多糖類アルギン酸を化学修飾して得られる物質』である“アルギン酸”を、化学修飾して製造される化合物である。

“ヒドロキシプロピル化デンプン”とともに添加することによって、『麺の弾力が強くなり、麺らしい食感になる』と書かれている。

“オリゴ糖”としては、三糖類のマルトトリオースが好適に利用でき、添加することによって、『再凍結が起こる場合においても、麺質の低下を抑制することができる』と書かれている。

公開特許公報(特開2013-2439959)の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6128755/5EFF0006C16102FBC534053ABD18256CE5C41FE22E7A8D84D32E10C9EDB47902/15/ja)。

【請求項1】

ヒドロキシプロピル化デンプン及びアルギン酸プロピレングリコールエステルを含有する

冷凍麺。

【請求項2】

前記冷凍麺がさらに、オリゴ糖を含む請求項1に記載の冷凍麺。

【請求項3】

前記オリゴ糖がマルトトリオースである請求項2に記載の冷凍麺。

【請求項4】

前記冷凍麺が流水で解凍して喫食するタイプである請求項1〜3のいずれかに記載の冷凍麺。

すなわち、冷凍麺の定義、ヒドロキシプロピル化デンプンの種類と含有量およびアルギン酸プロピレングリコールエステルの含有量を数値限定することによって特許査定されている。

特許公報発行日(2017年5月17日)の半年後に、一個人名で異議申立てが請求された(異議2017-701082 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6128755/5EFF0006C16102FBC534053ABD18256CE5C41FE22E7A8D84D32E10C9EDB47902/15/ja)。

審理の結論は、以下の通りであった。

特許第6128755号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について、訂正することを認める。

特許第6128755号の請求項4に係る特許を維持する。

特許第6128755号の請求項1ないし3に係る特許についての特許異議の申⽴てを却下する。

日清食品冷凍株式会社は審理の過程で、以下のように特許請求の範囲を訂正した。

【請求項1】 (削除)

【請求項2】 (削除)

【請求項3】 (削除)

【請求項4】

小麦粉、デンプン等を粉体として含有する冷凍うどんであって、

ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンを小麦粉10重量部に対して3〜5重量部、

アルギン酸プロピレングリコールエステルを粉体1kgに対して0.1g〜5g含有し、

マルトトリオースを粉体1kgに対して5〜100gの割合で練水に含む、

流水で解凍して喫食するタイプの

冷凍うどん。

すなわち、請求項1~3を削除して、請求項4にまとめ、請求項4も“冷凍麺”から“冷凍うどん”に減縮した。

審理では、記載要件(明確性要件、サポート要件、実施可能要件)と進歩性について争われた。

記載要件については、「粉体」の成分や量が不明、「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン」の置換度や架橋度が不明などの点について審理されたが、上記訂正によって、いずれも記載不備とは言えないと結論された。

また、進歩性については、引用発明(甲第1号証︓特開平6-169714号公報)と対比して、本特許発明と引用発明は、以下の点で一致していると判断された。

「小麦粉、デンプン等を粉体として含有する冷凍した茹でうどんであって、

加工デンプンを小麦粉10重量部に対して所定重量部含み、

増粘安定剤を粉体1kgに対して所定量g含有する冷凍した茹でうどん。」

しかし、下記の[相違点4]など、いくつかの点で相違しているとされた。

[相違点4]

「冷凍した茹でうどん」に関し、

本特許発明では「マルトトリオースを粉体1kgに対して5〜100gの割合で練り水に含む」のに対し、引用発明ではそのように特定されていない点。

相違点4について、甲第4号証(特開平8-173072号公報)には『麺線にオリゴ糖類の糖液を浸潤させたもの』が開示されているし、甲第5号証(特開2007-49972号公報)には、『パスタ表面から表面から内側方向において5〜30質量%を占める領域部分を指すパスタの表層部に糖類が含有されているもの』が開示されている。

しかし、

上記2つの公報に記載された発明においては、『マルトトリオースを練水に含むものではなく』、したがって、『麺線のほぼ全域に均⼀にマルトトリオースを含有することになる本件発明とは、麺線中の糖類の存在形態が異なる』と判断された。

また、甲第4号証や甲第5号証を含めた異議申立人の提出した証拠となる引用発明には、マルトトリオースを練り水に含む冷凍うどんについて記載や示唆はないことから、相違点4(「マルトトリオースを粉体1kgに対して5〜100gの割合で練り水に含む」)の構成を“当業者が容易に想到し得たことということはできない”として、進歩性が認められた。