日清製粉株式会社の特許第6232217号は、調理後等であってもクリスピーな食感を有する春巻皮の製造方法に関する。
一個人から異議申し立てされ、取消理由通知に対して、請求項1以外の請求項を削除する訂正を行ったが、明確性要件、実施可能要件およびサポート要件を満たしていないとして、取消された。
日清製粉株式会社の特許第6232217号『春巻皮の製造方法』を取り上げる。
特許第6232217号の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6232217/891C6F57F1DF67A8C0F415C191342E2BE8E22FBFB99262526B98104D0DFCD158/15/ja)。
【請求項1】
1〜7ガスボリュームを有する炭酸水と水を40:60〜100:0の質量比で
粉原料に添加混合して焼成前の生地にガスを含有させ、
該ガスを含有させた生地を130〜160℃で焼成して5%以上の空隙率を有する
春巻皮を得ることを特徴とする春巻皮の製造方法。
(【請求項2】以下は省略)
特許公報の記載によれば、本特許は食感の向上した春巻の皮の製造方法に関する発明である。
春巻は、具材を巻き、油ちょう(油で揚げる)することにより製造されるが、調理後の時間経過や電子レンジによる加熱で、「パリパリとした皮の食感が低下しやすい」。
春巻皮は、生地を焼成(加熱)して製造されるが、本特許発明においては、
焼成前の春巻の生地に炭酸水(1〜7ガスボリューム程度、1ガスボリュームは、1Lの水に1Lの炭酸ガスが溶けている場合)を添加して、生地にガスを含有させる。そして、生地を 130〜160℃焼成することにより、通常の方法と比べて、多くの空隙を有した皮となり、「時間経過後や冷蔵または冷凍保存後に電子レンジ加熱した後にもクリスピーな皮の食感を有する」春巻皮が製造できると書かれている。
本特許発明の春巻皮の空隙率は、以下の手順で測定された値をいい、5%以上であると書かれている。
空隙率の測定手順
1.春巻皮の表面をデジタルマイクロスコープで撮影する。
2.得られた画像を画像解析ソフトで解析(例えば二値化処理および面積計測)して、画像上の春巻皮中の空隙の面積を測定する。
3.測定された空隙の合計面積の、画像上の空隙を含む春巻き皮の全面積に対する百分率を計算し、当該春巻皮の空隙率とする。
公開特許公報(特開2015-6152、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2015-006152/891C6F57F1DF67A8C0F415C191342E2BE8E22FBFB99262526B98104D0DFCD158/11/ja)の特許請求の範囲は、以下の通りであり、生地にガスを含有させる製造条件、ならびに皮の焼成温度および空隙率の数値範囲を限定することによって、特許査定を受けている。
【請求項1】 焼成前の生地にガスを含有させることを特徴とする春巻皮の製造方法。
(【請求項2】以下、省略)
本特許は、特許公報発行日半年後に、一個人名で異議申立てされた
(異議2018-700405、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2015-006152/891C6F57F1DF67A8C0F415C191342E2BE8E22FBFB99262526B98104D0DFCD158/11/ja)
審理の結論は、以下の通りである。
『特許第6232217号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2、〔3、4〕について、訂正することを認める。
特許第6232217号の請求項1に係る特許を取り消す。
特許第6232217号の請求項2ないし4に係る特許についての特許異議の申⽴てを却下する。』
審理の過程で、取消理由が通知され、それに対して、日清製粉は、請求項2以下の請求項をすべて削除し、特許請求の範囲を請求項1のみとする訂正を行った。
しかし、再度、取消理由が通知された。
取消理由は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「空隙(率)」の意味するところが明確でなく、明確性要件、実施可能要件およびサポート要件(特許法36条6項2号、36条4項1号、36条6項1号)を満たしておらず、取り消すべきものであるというものであった。
再度の取消通知に対して、日清製粉は、期限内に応答しなかったため、本特許は取り消された。
明確性要件
実施可能要件
サポート要件
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0202.pdf