(7)損害賠償請求権 ~過去の侵害行為に対して~

特許侵害によって被った損害賠償に関して、民法第709条に人の権利を侵害した者は、侵害によって生じた損害を賠償する責任を負うと定められており、その損害賠償額の算定は、特許法に3種類の方法が規定されている。

しかし、どの算定方法を採用するのか、算定に用いる数値の客観性、被った全損害額のうち、特許侵害による損害がどの程度かかわっていたか(寄与率)の判断が難しい。

特許権の侵害によって生じた損害は、民法第709条に定められている不法行為による損害賠償責任によって、損害賠償請求することができる。損害額は、特許法第102条に定めのある、以下の3つの算定方法によって決められる。

1.損害額=「侵害者の譲渡等数量」(製造販売数量)×「権利者の単位あたりの利益」(限界利益)−「権利者の実施能力を超えた部分に相当する金額」(販売することができない事情がある部分)(特許法第102条第1項)

2.損害額=「侵害者が得た利益」(特許法第102条第2項)

3.損害額=「特許使用料相当額」(特許法第102条第3項)

上記に従えば、容易に損害額を算定できるように思われるかもしれないが、実際にはそう簡単ではない。

例えば、1の場合、「権利者の単位あたりの利益」は、原告が自らの利益率を開示しなければならないが、通常は開示したくない数字である。

また、3の場合、ライセンスによって実施許諾を得た場合の特許使用料(ライセンス料)は一般に公開されていないことや、業種や製品種類によって大きく異なると言われていることから、客観的な方法での算出が困難である。

そして、1~3に共通する問題が「寄与率」の問題である。

侵害に係る特許発明が実施されている部分が対象製品の一部分であると認められる場合は、損害額を全体における侵害部分の割合(寄与率)に応じた金額に限定されて減額される。しかし、寄与率の客観的な算定方法はないのが現状である。

なお、損害賠償請求権時効消滅(損害及び加害者を知った時から3年)した後は、「不当利得返還請求権」(民法第103条)に基づいて請求されることがある。

実例として、「切り餅」特許についての特許権侵害事件を見てみよう。

知財高裁の平成23年(ネ)第10002号の判決では、特許侵害が認められ、差止請求と損害賠償の命令が出されている。

損害賠償額は約8億円と巨額だが、判決文には、その算出にあたって、特許法第102条2に基づく場合は利益率30%、寄与率15%として算出しているが、特許法第201条3に基づく場合には、特許使用料は3%を超えることはないとはしたが、具体的な数値を示していない。そして、2に基づいて算出された損害額を採用している。

「切り餅」特許については、上記とは別の製品に対する特許権侵害訴訟も提起されており、東京地裁にて原告勝訴の判決が出ている(平成24年(ワ)第12351号)。この判決においては、寄与率は、原告の主張する15%と被告の主張する1~1.5%の間である10%が採用されている。また、実施料は2%と認めている。

なお、上記損害賠償額約8億円のうち、約7300万円は弁護士費用等である。

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(引用文献)

知財紛争処理システムに関する論点整理(損害賠償額関連)(案)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2016/syori_system/dai7/siryou2.pdf

経済産業省 特許権侵害への救済手続

http://www.meti.go.jp/policy/ipr/infringe/remedy/remedy03-1.html

特許侵害訴訟の損害賠償額の算定

https://www.ondatechno.com/Japanese/patentmedia/2017/109_2.html 

http://ipfbiz.com/archives/songai_11.html 

http://ipfbiz.com/archives/songai_12.html

切り餅事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/175/082175_hanrei.pdf 

http://www.u-pat.com/e-18.pdf