無効資料調査を行うためには、特許の内容を理解が必須であり、特許請求の範囲の構成(技術的範囲を定めた各請求項の相互の関係)と、各請求項の理解(請求項に記載された文言の解釈)がポイントになる。
「特許請求の範囲」は「請求項」に区分されており、「請求項」は審査だけでなく、特許権の効力、異議申立、無効審判請求などの際の判断の基本的単位である。複数の請求項からなる特許請求の範囲の理解には、各請求項の相互関係を正確に理解することが必要である。
審査や審判の過程を経ても、請求項の記載が明確でなく、その意味するところが「曖昧」であれば、特許法第36条違反(明確性違反)の無効理由を検討する。
無効資料調査を行うためには、特許の内容を理解できていることは必須であり、その理解が不十分であったり、誤っていると、当然、適切な無効資料調査をすることはできない。
発明の理解には、特許請求の範囲の構成(技術的範囲を定めた各請求項の相互の関係)と、各請求項の理解(請求項に記載された文言の解釈)がポイントになる。
1.特許請求の範囲と請求項
特許の内容を理解するということは、特許発明の技術的範囲(特許権が及ぶ権利範囲)を理解するということである。
そのためには、技術的範囲を定めている(画定している)「特許請求の範囲」を正確に理解することが必要になる。
「特許請求の範囲」は、「請求項」(クレーム)に区分されている。そして、各請求項ごとに、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項」が記載されている。
(参考 「知的財産用語事典 請求項(せいきゅうこう)Claim」
http://www.furutani.co.jp/cgi-bin/term.cgi?title=%93%C6%97%A7%90%BF%8B%81%8D%80)
請求項の記載に基づいて認定された発明は、審査の対象として特許要件(新規性・進歩性など)を充足しているかの判断だけでなく、特許権の効力、異議申立、無効審判請求などの際に、判断の基本的単位となる区分である(「明細書及び特許請求の範囲の記載要件の改訂審査基準」http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/shinsa/pdf/kisaiyouken_honbun.pdf)。
したがって、発明を理解するということは、具体的には特許請求の範囲に記載された各請求項の内容を理解するということになる。
「特許請求の範囲」には、通常、複数の請求項が記載されている。
特許出願は、「一発明一出願」が原則である。
しかし、「二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる」とされている。例えば、技術的に関係している表現形式が異なる発明(例えば、物の発明と方法の発明)を一つの願書で出願されることがある
また、独立項(主請求項)と従属項(付属項)の理解が必要である。
独立項は通常は【請求項1】であり、他の請求項を引用しない請求項(独立項)である。従属項は、「請求項1又は2に記載の…」のような、前出の請求項の引用する表現が記載された請求項である。
すなわち、従属項は、引用する前出の請求項に記載された発明に、事項(構成要件)を追加したものであって、同一の独立項に従属している各付属項は、独立項のすべての技術特徴を含んでいることになる。
つまり、従属項は、引用する前出の請求項に記載された技術的範囲より狭い範囲(限定された)の発明である。
したがって、従属項から見れば、引用する前出の請求項は「上位概念の発明」になる。一方、引用された前出の請求項から見れば、従属項は「下位概念の発明」になる。
従属項は、主請求項が潰れた時を想定してたてられた請求項である。
独立項と従属項との関係、従属項と従属項との関係をきちんと把握して、複数の請求項の相互関係を正確に理解することが必要である。
請求項相互の関係をきちんと把握するためには、クレームツリーを作成するなどして、複数の請求項の相互の関係をきちんと把握しておく必要がある
(クレームツリーの事例(【特許請求の範囲】の書き方について (その19))
http://img-cdn.jg.jugem.jp/e27/1208157/20090517_1151945.gif
「特許請求項における 多重多数項引用の検出と書き換え」
情報処理学会論文誌 Vol.49 No.7 2692-2702(July 2008)
『クレームツリーに代わる特許明細書の「インデックス」の紹介』
http://www.itohpat.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/09/20161122.pdf)。
2.請求項の文言解釈
「文言解釈」については、事例を挙げて、以前に説明したことがある。
(https://patent.mfworks.info/2018/03/26/post-548/)。
ここでは、「文言解釈」の大元である「審査基準」を説明したい。
審査基準には、審査の手順として、まず「請求項に係る発明の認定」がある。
この「認定」とは、「発明の技術内容を把握して確定する」という意味である
審査官は、請求項に係る発明を、請求項の記載に基づいて認定することになっている。
認定にあたり、「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項に記載されている用語の意義を解釈する」と審査基準には書かれている。
文言解釈に関して、知っておきたいことは2つある。
一つは、請求項の記載が明確でなく、複数の文言解釈ができる場合、
もう一つは、特定の表現を有する請求項において文言解釈する場合。
2-1.請求項の記載が一見すると明確でなく、理解が困難な場合
無効資料調査において、適切な検索式を立てるためには、請求項に記載された文言をきちんと解釈できていることが大切である。
審査基準には、「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項中の用語を解釈すると請求項の記載が明確になるのであれば、それらを考慮してその用語を解釈する」となっている。
出願時書類では意味するところが曖昧な用語や表現も、通常は、審査や審判の過程で特許請求の範囲が狭められていく「減縮」の過程で明らかにされていくはずであり、審査官・審判官の見解や出願人・特許権者の意見書・補正書を読んで、意味するところを理解できるはずである。
審査や審判の過程を経ても、その意味するところが「曖昧」な場合がないわけではない。
「曖昧」であれば、特許法第36条違反(明確性違反)という、無効理由が存在すことになる。ただし、無効資料調査とまったく無関係というわけではなく、「曖昧」であることを裏付けるための資料が必要になる場合がある。
(参考 明確性要件
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(その2に続く)