「邪魔な特許」が見つかった時には、特許請求の範囲と
侵害懸念のある商品や技術との対比を行い、
特許の技術的範囲に属するか否かの判定を行い、
侵害リスクが本当にあることを確認する。
次いで、
無効資料調査や訂正・補正の可能性の検討を行って、
特許を無効化できる可能性が高いか低いかを判断する。
無効化できる可能性が高ければ、
異議申立、無効審判請求や情報提供の
アクションを取る。
可能性が低ければ、前記アクションに加え、
抗弁の可能性、実施技術の中止・変更、
ライセンシングなどの侵害回避方法の検討を行う。
ここで私の考える「邪魔な特許の潰し方」の流れ
(フロー)を書いてみたい。
「邪魔な特許」とは事業の運営に支障を及ぼす
(障害となる)可能性が高い特許。
フローは、各ステップごとに書くが、
考え方を示すためのもので、
実際には前後することや省略可能な場合もある。
また、自分一人でやるにしても、
必要に応じて、経験者や専門家のアドバイス、
関連部署の協力を得ながら進めていくことになる。
ステップ1;侵害可能性の確認(属否判定)
A.その時点で最新の有効な特許請求の範囲の確認
経過情報を調べ、出願後、特許請求の範囲が
補正されていないか調べる。
異議申立、無効審判請求、訂正審判請求されていれば、
特許請求の範囲の訂正が行われていないか調べる。
上記によって、最新の特許請求の範囲を確認する。
B.最新の有効な特許請求の範囲(技術的範囲)の画定
各請求項を発明特定事項に分節する。
分節された言葉(用語)の意味が不明の場合は、
定義を確認する。
確認のためには、明細書記載の検討や
審査経過調査(包袋調査など)、
および
当該技術分野における出願時の技術水準(技術常識)
についての知識が必要になる。
C.侵害リスクのある商品・技術(イ号)の確認
イ号商品、イ号技術を特定する。
(「イ号」の参考文献
(4)判定請求手続の流れ
知的財産用語辞典 http://www.furutani.co.jp/cgi-bin/term.cgi?title=%83C%8D%86%95%A8%8C%8F)
侵害有無は、
特許請求の範囲に記載された発明特定事項(構成要件)との
対比によって判断する。
よくあるのが、
感覚的に嫌な特許だから潰したいという希望。
本当に障害となるかどうかは、
対比するもの(イ号)が明確でないと結論が出せない。
D.対比表の作成
請求項ごとに、
発明特定事項とイ号とを対比する。
対比は、「上位概念・下位概念」や「均等」の考え方を
含めて検討する。
対比によって、
イ号が請求項の発明特定事項をすべて充足するかどうかを判断し、
イ号が「邪魔な特許」の技術的範囲に属するか否かを判定する
(属否判定)。
その結果、
特許請求の範囲に属する(可能性が高い)と判定されたら、
「邪魔な特許」を無効化することによって
侵害を回避できる可能性があるかどうか検討する。
なお、
対比は、次の無効資料調査の前段階の工程でもある。
ステップ2.侵害回避可能性検討
登録された特許であれば、以下のA~Cを検討し、
特許を無効化できるかどうかの可能性を判断する。
審査中や審査請求前の出願段階であれば、
「特許成立性」の検討を行う。
A.新規性欠如・進歩性欠如の無効理由の存在可能性;無効資料調査
(ここでは、成立性を抵触確認調査、無効性を無効資料調査と呼ぶ)
B.36条違反の可能性;サポート要件、実施可能要件、明確性要件
明細書の記載を精査する。
C.特許請求の範囲の補正・訂正の可能性検討
拒絶理由通知や上記Aの無効資料調査で見つかった文献をもとに
特許請求の範囲の減縮等で、特許権者(出願人)が
拒絶理由や無効理由を回避できるかどうか検討する
無効化できる可能性は、「高い」または「低い」で評価する。
A.高い
少なくとも、
特許に抵触しないような技術的範囲まで
権利範囲を狭められる可能性が高い。
審査段階であれば、
抵触するような形で特許が成立する可能性は低い。
B.低い
抵触しない技術的範囲まで権利範囲を狭めることは難しい。
審査段階であれば、
侵害するような形で特許が成立する可能性が高い。
上記判断は、事案の重要性や評価の難易度が高い場合には、
必要に応じて、弁理士等に鑑定依頼して確認を取る。
ステップ3.侵害回避のためのアクション
無効化できる可能性が高い、あるいは
特許成立性が低いと判断される場合には、
以下のアクションを検討する。
登録特許;異議申立、無効審判請求
審査段階(審査請求前・審査中);情報提供
また、
無効化困難と判断される場合、あるいは
特許成立性が高いと判断される場合は、
上記の異議申立、無効審判請求、および情報提供に加えて、
以下のA~Cの可能性を検討する。
A.無効以外の抗弁の検討(作用効果不奏功、用尽など)
B.製造仕様等の変更による権利範囲外へ、あるいは製造販売中止
C.出願人あるいは特許権者からの技術供与・ライセンシング
(参考
特許侵害訴訟における作用効果不奏功の主張(上)
http://www.chosakai.or.jp/intell/pat/contents17/201704/201704_5.pdf
特許侵害訴訟における作用効果不奏功の主張(下)
http://www.chosakai.or.jp/intell/pat/contents17/201706/201706_7.pdf
特許権の消尽(国内消尽)とは
https://business.bengo4.com/category5/practice871
黙示実施許諾 – 知的財産用語辞典
http://www.furutani.co.jp/cgi-bin/term.cgi?title=%96%D9%8E%A6%8E%C0%8E%7B%8B%96%91%F8)
次回から、無効資料調査について、私の考えを具体的に述べていきたい。