(50)特許を巡る争いの事例;トマト含有調味料特許

花王株式会社の特許5981135号「トマト含有調味料」は、

うまみアミノ酸で「アスパラギン酸」を「特定量」配合して、

ケチャップなどの製造工程における風味変化を抑制する方法に関する特許。

異議申立され、花王は特許請求の範囲を訂正したが、

特定量全般にわたって、発明の効果が得られることを示す

裏付けデータが不十分であるとして、取消され、権利消滅した。

花王株式会社の特許5981135号「トマト含有調味料」を取り上げる。

本特許の特許請求の範囲は、以下のようである

(特許公報  https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5981135/491DA616659035021CE7935D0ACD67EC)。

【請求項1】

トマト又はトマト加工品とアスパラギン酸又はその塩とを含む原料を、

100℃以下で120分を超えない時間開放系で加熱処理することを特徴とする、

アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で

0.13~1.13質量%含有し、

且つ

可溶性固形分(Brix値)が5~40%である

トマト含有既加熱調味料を製造する方法。

(請求項2以下、省略)

アスパラギン酸は、アミノ酸の一種。うまみ成分。トマトに多く含まれている。

http://www.kagome.co.jp/statement/health/tomato-univ/dietetics/shoyu.html)。

本特許の目的は、

「ある程度の可溶性固形分を含むトマト加工品においては、

公知の技術では却ってトマト感を損ねてしまう場合があり、

加熱処理による風味変化が出てしまうことが判明した」ので、

「加熱による風味変化を抑制し、トマト本来のフレッシュな香気が感じられる

トマト含有調味料を提供することにある」と書かれている。

なお、「トマト含有既加熱調味料」として、

トマトケチャップ、トマトソース、チリソースが例示されている。

公開公報(特開2013-135639)の特許請求の範囲は以下のようであった

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H25135639/1CF48F6BE0F595EBB14897B669F83CFF)。

【請求項1】

アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で

0.13~1.13質量%含有し、且つ

可溶性固形分(Brix値)が5~40%である

トマト含有調味料。

(請求項2以下、省略)

審査で拒絶査定になったため、拒絶査定不服審判請求をして、

特許査定された(平28.7.26)。

公開公報では、「トマト含有調味料」という「物」についての特許であったが、

「トマト含有調味料を製造する方法」という、

「方法」の形にして特許を受けている。

本特許に対して、平成29年2月17日に、一個人から異議申立てされた

(異議2017-700150)。

異議申立の審理の結論は、

「特許第5981135号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された

訂正特許請求の範囲のとおり、

訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。

特許第5981135号の請求項1~5に係る特許を取り消す。

であった。

認められた訂正後の請求項は、以下のようであった。

【請求項1】

トマトペーストにアスパラギン酸又はその塩を配合した原料を、

60~90℃で10秒間~5分間開放系で加熱処理することを特徴とする、

前記アスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩を

アスパラギン酸換算で0.13~1.13質量%含有し、

トマトペーストを15~55質量%含有し、

且つ

可溶性固形分(Brix値)が5~40%である

トマト含有既加熱調味料を製造する方法。

(請求項2以下、省略)

特許査定された請求項1と比較して、

加熱処理条件の範囲の限定およびトマトペースト含有量の限定がなされている。

取消理由は、サポート要件違反であった。

具体的には、

トマト含有加熱調味料のアスパラギン酸総量は、

(配合されたアスパラギン酸+トマトペーストに由来するアスパラギン酸)

である。

しかし、本特許明細書に記載された実施例から見ると、

アスパラギン酸の総量は、

「トマトペースト由来のアスパラギン酸を考慮」せず、

「配合されたアスパラギン酸ナトリウムからの演算値に基づいて決定された数値範囲」を

特定したものである。

「本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、

アスパラギン酸又はその塩を一定範囲で含有させれば、

加熱による風味変化を抑えることができ、

トマト本来のフレッシュな香気を有するトマト含有調味料とすることが

できることを見出した」というのであれば、

「トマトペーストの種類や配合量に応じて、

別途配合するアスパラギン酸又はその塩の配合量を

調節しなければならないことは明らかである」。

しかし、

本発明の数値範囲(0.13~1.13質量%)は、

「特定のトマトペースト35質量%を配合した実施例を前提」とした数値範囲であり、

これ以外のトマトペースト配合量の場合も、

上記数値範囲で効果があるかどうかは、記載がないため、明らかでない。

したがって、

「配合したアスパラギン酸又はその塩に由来するアスパラギン酸又はその塩を

アスパラギン酸換算で0.13~1.13質量%含有すれば」、必ず、

「本件発明の課題を解決できるということはできない」とされた。

結論として、

「発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らし、

当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできず」、

「請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を

満たしていない特許出願」とされた。

本特許は、平成30年7月30日に権利消滅した。

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(参考文献)

サポート要件 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/02_0202.pdf 

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