特許発明の実施を目的とせず、高額なロイヤルティー(ライセンス料)や和解金を得ることを目的として特許を保有する者(パテント・トロール、PAE)に対して、米国では様々な対策が打たれてきた。日本においても、同様な問題が起こることが懸念されており、対策が打たれつつある。
特許発明を実施する企業にとって、ビジネスの武器として特許権を使うことは事業戦略として一般に行われていることである。
一方、特許発明の実施を目的とはせずに特許を保有している特許権者も存在する。
例えば、個人発明家や公的研究機関が該当するが、中には、高額なロイヤルティー(ライセンス料)や和解金を得ることを目的とした特許権者もいる。
パテント・トロール(patent troll)と呼ばれる存在で、現在は、PAE(Patent Assertion Entity)という名称が使用されるようになってきている。
パテント・トロールの「トロール」の語源は、北欧伝説に出てくる超自然的な怪物とか、トロール漁業の「流し釣り」に由来すると言われているようである。(https://core.ac.uk/download/pdf/71797808.pdf)
パテント・トロールの例としては、有効性に疑義のある特許を買い取り、買い取った特許権をもとに関連する企業に警告状を送り、法外なロイヤルティーを請求したり、高額な和解金や高価での特許権の買取などを迫るもので、米国では企業の事業運営に大きな影響を及ぼしていた。
しかし、米国政府・裁判所が取った対策によって、状況は変化しつつある。
取られた対策は、7項目。
特許審査に関する対策として、
特許性基準の引き上げと特許無効化手続の強化、
権利行使の制限に関する対策として、
損害賠償額の抑制、差止基準の厳格化、及び権利行使リスク・コスト増大(敗訴した際に相手方の弁護士費用負担を命じられる可能性の高まり)、
訴訟提起に関する対策として、
特許訴訟コストの低減(証拠資料の収集要求低減)、裁判地選択権の制限。
権利行使については、特許権の濫用の観点から、制限されるようになった。
上記のうち、最も米国的なのが、裁判地選択権の制限である。
米国では訴訟提起先の裁判所をほぼ自由に選ぶことができ、パテント・トロールは、特許権保有者に甘いことで有名なテキサス州東部連邦裁判所を選んで訴訟を起こしていた。
しかし、米国最高裁は、特許権侵害を主張する際には、特許権を侵害する企業が設立された場所または現実に業務を行っている場所あるいは現に特許権が侵害されている場所を管轄する裁判所にのみ出訴できると決めたということである。
一方、日本では、パテント・トロールによる被害はこれまで問題とされることはなかったが、最近になって注目を浴びるようになってきている。
トヨタやホンダなど25社が、米国の特許ブローカーとして名高い会社から特許侵害しているとの訴えが起こされたと報道された。
経産省は、パテント・トロールによる高額なロイヤルティー(ライセンス料)請求について、例えば法外なロイヤルティーを要求された場合、ロイヤルティーを適正化して、紛争を早期解決するための裁定制度(ADR制度)の導入を目指していたが、見送られた。
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(引用文献)
米国パテントトロール訴訟の勃興と退潮,米国あげての総動員対策,及び今後の日本の課題
https://core.ac.uk/download/pdf/71797808.pdf
米国特許権保護の現状~パテント・トロール対策およびその影響~
アメリカ最高裁、パテント・トロールに打撃――特許権侵害訴訟の提起先を制限
「特許の妖怪」獲物になりやすい日本 裁判の長期化避け和解金で…被害の増加懸念
http://www.sankei.com/west/news/170516/wst1705160020-n1.html
トヨタ・ホンダもついに標的に、「特許トロール」の恐怖
http://ascii.jp/elem/000/001/490/1490024/
知的財産制度を悪用、経産省が「怪物」退治へ http://www.hatsumei.biz/20160925/
経済産業省、日本企業をパテントトロールから守る対策に第三者委員会を設置
http://neoview.blog.jp/archives/15589011.html
第四次産業革命を視野に入れた新たなADR制度の検討
参考資料-経済産業省 http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20170419001-3.pdf
特許庁、ADR制度導入見送り ライセンス料の設定困難
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00452144
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