【31】無効資料調査 ~パラメータ特許を潰す~ ”推認”

パラメータ特許の無効資料調査において大切な観点は、“刊行物に記載されているに等しい事項”が記載されている文献を見つけようとする考え方である。すなわち、無効化したい特許発明の直接的な記載はないが、出願時における技術常識を参酌すれば、推認によって、無効化したい特許発明が導き出せる記載がある文献を見つける観点である。ただし、高い“蓋然性”を持って、“推認”できることを示せることが必要である。

パラメータ特許とは、回転数のような技術的変数(パラメータ)を、特定の範囲にすること(数値限定)を要件とし、それによって「際立って顕著な効果」ないしは「新規な効果」が得られる特許のことである(特許権の不安定さを生む要因 その7;出願テクニック

http://patent.mfworks.info/2018/04/09/post-552/)。

パラメータ特許の無効資料調査に際しては、最初から、数値が明示された先行文献や新規な効果が記載されている先行文献が見つかる可能性は低いことを考慮しておく必要がある。

先行文献に数値が記載されていない場合の対応策としては、まずは、“刊行物に記載されているに等しい事項”が記載されていないかを念頭に入れてヒットした先行文献を精査することである。

新規性や進歩性の審査の進め方に関する特許庁の審査基準を下記に引用する。

”「刊行物に記載された発明」とは、刊行物に記載されている事項及び刊行物に記載されているに等しい事項から把握される発明をいう。

審査官は、これらの事項から把握される発明を、刊行物に記載された発明として認定する。

刊行物に記載されているに等しい事項とは、刊行物に記載されている事項から本願の出願時における技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項をいう

(第 III 部 第 2 章 第 3 節 新規性・進歩性の審査の進め方 第 3 節 新規性・進歩性の審査の進め方 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0203.pdf)。

それでは、“刊行物に記載されているに等しい事項”の主張をどう展開したらよいだろうか?

第 III 部 特許要件には、

3218 機能、特性等の記載により、引用発明との対比が困難であり、厳密な対比をすることができない場合(新規性が否定されるとの一応の合理的な疑い)

出願人が意見書、実験成績証明書等により、その一応の合理的な疑いについて反論、釈明し、請求項に係る発明が新規性を有していないとの心証を、審査官が得られない場合には、拒絶理由は解消する “と書かれている(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/document/index/03.pdf)。

裏を返せば、“合理的な疑い”を主張できる先行技術文献を見つければよいことになる。

“合理的な疑い”とは、刊行物に明確に記載されていないが、記載事項から“推認”できるの意味である。ただし、高い“蓋然性”を持って、“推認”できることを示せるかがポイントである。

参考になるのは、“2. 一応の合理的な疑いを抱く場合の例”である。

パラメータ特許に関係すると思われる項目は、以下である。

請求項に係る発明の機能、特性等が他の定義又は試験・測定方法によるものに換算可能であって、その換算結果からみて、請求項に係る発明と同一と認められる引用発明の物が発見された場合

・・・・・・

(b) 請求項に係る発明と引用発明が同一又は類似の機能、特性等により特定されたものであるが、その測定条件又は評価方法が異なる場合であって、以下の(i)及び(ii)の両方に該当する場合

(i) 請求項に係る発明と引用発明とで両者の測定条件又は評価方法の間に一定の関係があるとき。

(ii) 引用発明の機能、特性等を請求項に係る発明の測定条件又は評価方法により測定又は評価すれば、請求項に係る発明の機能、特性等に含まれる蓋然性が高いとき。”

つまり、技術常識・周知技術や公知文献に記載された事項をもとにして、合理的に計算した値を根拠として無効性を主張していく方法である。

実例としては、特許を巡る争い<13>サントリーホールディングス株式会社・ナトリウム含有飲料特許(http://patent.mfworks.info/2019/06/24/post-2457/)がある。

飲料中のラウリン酸濃度、ナトリウム濃度及びBrix値を、公知文献の記載をもとに算出している。

それでは、”刊行物に記載されているに等しい事項から把握される発明”という主張は、採用されるものだろうか?

結局は、計算の前提とした事項が妥当なことや、計算の論理が適切に構築されたものであることを、文献で提示できるかどうかにかかっている。

上記した“2. 一応の合理的な疑いを抱く場合の例”の中には、もう一つの出願テクニック、“新規な効果の主張”に関連する以下の例示がある。

”(e) 引用発明と請求項に係る発明との間で、機能、特性等により表現された発明特定事項以外の発明特定事項が共通しており、以下の(i)及び(ii)の両方に該当する場合

(i) その機能、特性等により表現された発明特定事項の有する課題若しくは有利な効果と同一又は類似の課題若しくは効果を引用発明が有しているとき。

(ii) 引用発明の機能、特性等が請求項に係る発明の機能、特性等に含まれる蓋然性が高いとき。”

公知になっている物質等について、新たな属性や機能などの発見に基づいた発明については、以前に用途発明の説明の際に少し触れた(http://patent.mfworks.info/2019/08/31/post-2528/)。

機能や特性等を物の特定に役立たないとできるか、無効化した発明と引用発明とが一致すると言えるか、無効化したい発明が引用発明で認識されているかが、判断のポイントになる

(内在同一について判断した高裁判決を読む パテント 2017  Vol. 70 No. 5 −4−

https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/2797

「内在同一について判断した高裁判決を読む」への指摘事項に対する回答

Vol. 70 No. 9  パテント 2017 − 107 − https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/2894)。