特許を巡る争い<3>株式会社波里・胡麻ペースト製造特許

株式会社波里の特許第3699439号は、主に「ごま」ペーストの製造方法に関する。特許登録後12年程経ってから、かどや製油株式会社が進歩性欠如の理由で無効審判請求したが、主張は通らず、権利維持。かどや製油は知財高裁に出訴した。

株式会社波里の特許第3699439号「種実微粉砕ペースト及びその製造方法」を取り上げる。

株式会社波里は、和菓子の原材料である「上新粉」・「もち粉」・「胡麻」・「きな粉」などを製造する会社である(http://www.namisato.co.jp/)。

特許第3699439号の特許請求の範囲は、以下のようである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_3699439/E42956F9CABCA986B3F8F4A73F0E1609)。

【請求項1】

原料であるごまに由来する種皮、種実及びごま油のみを含み、

固形分の50%積算径(メジアン径)が4~15μmであることを特徴とする

種皮付きごま微粉砕ペースト。

(【請求項2】以下は省略するが、本特許は、請求項数が25あり、請求項1を含め9つの請求項が独立項という構成となっている。)

本特許は、「様々な飲食物に容易に混合することが出来、舌触りがよく且つ安定性に優れるごま類や豆類等の種実の微粉砕ペーストと、そのようなペーストを含有する食品」に関するものである。

公開時の特許請求の範囲は以下のようである(特開2004-159606、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H16159606/1977A0125D312D6CF69B1048C565C823)。

【請求項1】

種皮、種実及び食用油を含み、

固形分の50%積算径(メジアン径)が4~15μmであることを特徴とする

種皮付き種実微粉砕ペースト。

(【請求項2】~【請求項24】は省略)

請求項1は、「種実」の種類を「ごま」に限定することによって、特許査定されている。

本特許は、平成14年11月15日に出願、早期審査され、平成17年6月23日に特許査定、平17年7月15日に特許登録、平成17年9月28日に特許公報が発行されている。

本特許の権利行使可能な期間は、平成34年11月15日(存続期間満了日)までである。

本特許に対して、特許登録後12年ほど経った平成29年3月21日に、

かどや製油株式会社が無効審判請求した(2017-800039)。

かどや製油株式会社は、「ごま」関連製品の製造を行っている(http://www.kadoya.com/company/business/tabid/123/Default.aspx)。

審判の結論は、以下のようであった。

特許第3699439号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6-9〕、〔10-15〕、〔16-19〕、〔20-25〕について訂正することを認める。

特許第3699439号の請求項1-7、9-20、22-25に係る特許についての本件審判の請求は、成り⽴たない。

特許第3699439号の請求項8、21に係る特許についての本件審判の請求を却下する。

審判費⽤は、請求⼈の負担とする。

株式会社波里は、審判の過程で、以下のように特許請求の範囲を訂正した。

【請求項1】

原料であるごまに由来する種⽪、種実及びごま油のみを含み、

固形分の50%積算径(メジアン径)が体積基準で4〜15μmであり、

且つ固形分の⽐表⾯積が0.727〜0.999m /cm であることを特徴とする

種⽪付きごま微粉砕ペースト。

(【請求項2】~【請求項25】は省略するが、【請求項2】【請求項3】【請求項6】【請求項7】【請求項10】【請求項11】【請求項16】【請求項20】も独立項の構成になっている。)

固形分の比表面積の数値限定を追加する訂正を行っている。

かどや製油株式会社は、全請求項について、進歩性欠如の無効理由があると主張した。

以下では、請求項1について説明する。

審判官は、特表平10-512148号公報(甲第11号証、引用発明11-1)及び雑誌記事「すりゴマ、練りゴマの調理特性」(甲第1号証、引用発明1-1)を主引用発明として検討した。

本発明と甲第11号証記載の発明11-1とを対比すると、以下のような一致点・相違点があるとした。

(⼀致点)原料である種実類に由来する、種実及び種実類の油を含み、固形分の50%積算径(メジアン径)が体積基準で4〜15μmである種実類微粉砕ペースト。

(相違点1-1)原料である種実類について、本件発明1は、ごまに特定し、さらに、ごまに由来する種⽪、種実及びごま油のみを含むと特定しているのに対して、引⽤発明11-1は、ナッツと特定しているものの、それがごまであるとまでの特定はしていない点。

(相違点1-2)種実類微粉砕ペーストについて、本件発明1は、積算径に加えて、「且つ固形分の⽐表⾯積が0.727〜0.999m /cm であること」と特定しているのに対して、引⽤発明11-1は、そのような特定はしていない点。

相違点1-2について、甲第11号証には、固形分の⽐表⾯積の記載がなく、他の引用発明にも記載がなく、容易に想到し得た発明とは言えず、また、かどや製油の主張は、特定の傾向の粒⼦径分布を前提として用いているから採用できないとした。

また、相違点1-1は、検討するまでもなく、容易に想到し得たとは言えないと判断した。

本発明と甲第1号証記載の発明1-1とを対比においても、同様な判断であった。

そして、「請求⼈の主張及び証拠⽅法によっては、本件発明1〜7、9〜20、22〜25についての特許を無効とすることはできない。」とむすんだ。

なお、かどや製油株式会社は、この結果に対して、平成31年1月25日、知的財産高等裁判所に出訴した(平31行ケ10009)。