【12】無効資料調査の前段階(3)発明の理解;請求範囲(権利範囲)の画定 その2

2.特定の表現を有する請求項の文言解釈

(i) 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載や、(ii) 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載がある場合、請求項中にそうした記載があったとしても、それらの記載がその物を特定するのに役に立っていないと判断される場合には、物そのものの発明と認定される。

請求項の文言解釈は、通常は審査や審判の過程で明確になるのが通常である。特に、出願人や特許権者が審査や審判の過程で意識的に除外した技術的範囲には注意したい。請求項に記載された文言をより狭く解釈できる場合がある(「禁反言の法理」)。

請求項の文言解釈に関して、知っておきたいことが2点ある。

一つは、請求項の記載が明確でなく、複数の文言解釈ができる場合、もう一つは、特定の表現を有する請求項の文言解釈である。

2-2.特定の表現を有する請求項の文言解釈

請求項に記載された発明は、「請求項の記載に基づいて認定する」が基本であるが、特定の表現形式をとる特許については、審査基準に文言解釈の仕方について説明されている。

特定の表現形式とは、具体的には、以下の6つである

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0204.pdf)。

(i) 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載

(ii) 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載

(iii) サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載

(iv) 製造方法によって生産物を特定しようとする記載

(v) 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載

(vi) 選択発明

以下では、(i)と(ii)について説明する。

なお、(iv)は、プロダクト・バイ・プロセス形式のクレームで、「(28)特許権の不安定さを生む要因 その3;審査基準は変更される」(https://patent.mfworks.info/2018/03/12/post-544/)で説明した。

また、「(v)数値限定を用いて発明を特定しようとする記載」と「(vi)選択発明」については、このあとの「進歩性」の審査基準の説明の項で述べる。

(i)作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun_bm/03_0204bm.pdf

請求項に作用、機能、性質又は特性(機能、特性等)を用いて物を特定しようとする記載がある場合は、そうした機能・特性等を有する全ての物を意味していると解釈する。

審査基準には、「熱を遮断する層を備えた壁材」は、「断熱という作用又は機能を有する層」という「物」を備えた壁材と認定すると例示されている。

機能、特性等の意味や内容が明細書や図面で定義又は説明されている場合には、その定義又は説明の意味することを考慮することになっている。ただし、上記「2-1.請求項の記載が一見すると明確でなく、理解が困難な場合」と同様に、明細書や図面の記載をもとに解釈するのが通常である。

注意しなければならないのは、請求項中に機能、特性等を用いて物を特定しようとする記載があったとしても、機能、特性等の記載をその物を特定するのに役に立っていないと判断される場合があることである。

審査基準には、「抗癌性を有する化合物 X」が例示されている。

抗癌性が特定の化合物 X の固有の性質であるとすると、「抗癌性を有する」という記載は、物を特定するのに役に立っていない。

つまり、「抗癌性」は、化合物Xの固有の性質であるため、「抗癌性を有する」なる記載は、物を特定するのに役に立っていないためと説明されている。

したがって、『化合物 X が抗癌性を有することが知られていたか否かにかかわらず、「化合物 X」そのものを意味しているものと認定する。』と認定される。

(ii)物の用途を用いてその物を特定しようとする記載がある場合

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun_bm/03_0204bm.pdf

「用途限定が付された物が、その用途に特に適した物を意味する場合は、審査官は、その物を、用途限定が意味する形状、構造、組成等を有する物であると認定する」ことになっている。いわゆる用途発明である。

「用途発明とは、(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう。」と定義されている。

ただし、化合物、微生物、動物又は植物で、『「~用」といった用途限定が付された化合物(例えば、用途 Y 用化合物 Z) については、用途限定のない化合物(例えば、化合物 Z)そのものと解釈する。

このような用途限定は、一般に、化合物の有用性を示しているにすぎないからである。』と審査基準には説明されている。

「殺虫用の化合物Z」が例示されており、『「殺虫用の化合物 Z」という記載を、用途限定のない「化合物 Z」そのものと認定する。明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮すると、「殺虫用の」という記載はその化合物の有用性を示しているにすぎないからである。なお、「化合物 Z を主成分とする殺虫剤」という記載であればこのようには認定しない。』と説明されている。

このあたりは、同じ化合物を出願するとしても、どういう形で出願すると権利化できるかという、いわゆる、”出願テクニック”と関係してくる。

なお、食品は用途特許の例外的に認められていなかったが、審査基準が変わり、用途特許が認められるようになった((29)特許権の不安定さを生む要因 その4;各国による審査基準の違い ~食品用途特許~ https://patent.mfworks.info/2018/03/19/post-546/)。

そして、実際に、月桂冠の例がある(特許第6404403号

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6404403/84EB79910B71297D5F9927F446FF5E2A)。

出願時書類では意味するところが曖昧な用語や表現も、通常は、審査や審判の過程で限定的に解釈されるようになってくるはずであり、審査官・審判官の見解や出願人・特許権者の意見書・補正書をていねいに読むことによって、意味するところが明確になるはずである。

特に、出願人や特許権者が審査や審判の過程で意識的に除外した技術的範囲には注意したい。

審査官や審判官の判断とそれに対する出願人や特許権者の意見書等から、「手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたもの」と認められる場合は、請求項に記載された文言をより狭く解釈できる場合がある。

「意識的除外」に関連して、「禁反言の法理」というのがある。

「禁反言の法理」とは、「エストッペル(Estoppel)」とも言い、過去の行為と矛盾するような行為を禁止する法理であり、特許においては「包袋禁反言の原理」、すなわち、出願経過において主張した内容と矛盾するような内容の主張を訴訟などの場面においてすることは許されないという原則である

(禁反言の法理 ──禁反言が生じる各場面と実務上のポイント──

http://knpt.com/contents/thesis/00031/00031.pdf

Title 特許権行使の制限法理 – 京都大学学術情報リポジトリ

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/233818/2/ghogr00199.pdf

均等の第5要件について判示した最高裁判例

https://www.hanketsu.jiii.or.jp/hanketsu/jsp/hatumeisi/news/201711news.pdf)。