(32)特許権の不安定さを生む要因 その7;出願テクニック

広く、強い特許を出願するための指南書が多数出されているが、一般的には審査における最重要ポイントは「進歩性」をクリアすること、「新規な」「異質な」効果が主張できれば特許性が高まる。

特許出願の指南書が多数出版されている。また、セミナーも頻繁に企画されている。

これらに共通するキーワードは、「広い」特許、そして「強い」特許。

「広い」は、実際の発明技術の実施形態をもとに、できるだけ広い技術領域をカバーできるような請求項を作成すること、「強い」は、他社が嫌がるような、また権利行使を容易にするような侵害発見が可能な請求項を作成することを意味しているように思われる。

これらを読んでいると、特許は、技術よりも、請求項の書き方次第のような印象を受ける場合がある。

特許を取得しようとすると、特許庁に特許出願して審査を受けなければならない。

審査におけるポイントは、出願された発明の「新規性」と「進歩性」の有無である。

通常、出願する前に先行文献調査が行われるので、出願発明と同じ技術が記載された文献が見つかれば「新規性無し」と判断されて、出願を見合わせることになる。したがって、出願された発明の大部分は、少なくとも、「新規性」については、「有り」と思われる。

となると、審査で特許として認めてもらえるかどうかは、「進歩性」のある発明かどうかが「鍵」になる。

特許の審査基準には、進歩性は、通常の技術者が「容易に」発明をすることができたかどうかで判断されるとなっている。

「容易に」というのは、先行技術調査で見つかった文献の中から、出願発明に最も内容的に近い文献を主引用発明とする。

そして、主引用発明から出発して、副引用発明と組み合わせることによって、出願発明に「容易に」到達(想到)できるという論理構築ができるか否かという意味である。

「容易に」想到できたか否かの判断には、「進歩性が否定される方向に働く諸事実及び進歩性が肯定される方向に働く諸事実を総合的に評価することが必要である」として、諸事実が例示されている。

進歩性が肯定される方向として、「請求項に係る発明が解決しようとする課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものである」場合、

あるいは、「引用発明と比較した有利な効果を有する」場合として、「引用発明が有するものとは異質な効果方向に働く有力な事情」

及び「同質の効果であるが際だって優れた効果」が例示されている。

そして、「技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものである場合」には、進歩性が肯定されるということになる。

実際の進歩性の判断は、主引用発明と副引用発明とを結びつける「動機付け」の記載があるかどうかがポイントになる。

従来技術と比較して、効果がどの位高いと「際立って優れた効果」と判断されるのか?

条件最適化のように、効果が連続的に変化するのではなく、非連続的(臨界的)に変化するような場合には、「際立って優れた効果」と主張し得る。ただ、非連続的であるかどうかの基準は必ずしも明確ではないと思われる。

そこで、特許性を高めるため、「異質な効果」、つまり「新規な効果」を訴求することの方が「動機付け」がないと主張することを検討する。

「技術者のための特許実践講座」(小川勝男 他、森北出版)の副題は「技術的範囲を最大化し,スムーズに特許を取得するテクニック」である。

その中に、権利化に向けて、つねに意識すべきポイントの一つとして、「問題を探し、分野特有の新しい効果を抽出する」ことが挙げられている。

そして、“特許は「なる」ではなく、「する」ものと考え、分野特有の新しい効果を主張して権利化を図る.“と書かれており、事例として、「切り口を変えた特許群で実用可能な全範囲を網羅する:遠心脱水機」の項目には、「切り口(理屈)を変えた3件の特許で,脱水機の実用可能なほぼすべての回転数(2300~3000rpm)の範囲を網羅するように権利化を行いました.」と紹介されている。

回転数のような技術的変数(パラメータ)を、特定の範囲にすること(数値限定)を要件とし、それによって「際立って顕著な効果」ないしは「新規な効果」が得られる特許を「パラメータ特許」と呼んでおり、進歩性の判断において有利に働く場合がある。

食品分野において、「パラメータ特許」の弊害が指摘されているhttps://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201603/jpaapatent201603_024-035.pdf)。

例示されているのが、特許第5382754号「ノンアルコールのビールテイスト飲料」(もともとは「pHを調整した低エキス分のビールテイスト飲料」)。

特許査定された時の請求項1は、以下だったが、最終的に無効になっている。

請求項1

エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるビールテイスト飲料であって、pHが3.0以上4.5以下であり、糖質の含量が0.5g/100ml以下である、前記飲料。

そして、発明の効果は、エキス分の総量が低いビールテイスト飲料であっても、「飲み応え感」が付与された飲料が製造できることであった。

エキス分総量、pH、糖質含量はメーカーで一般的に分析される項目であるが、メーカーの市販品の分析結果は一般に公開されていない。

そのため、特許出願以前から公知公用であることの立証が困難であること、また、 「飲み応え感」という官能検査にとって評価される効果は「恣意性」の問題があると指摘されている。

食品の配合を変えて、「おいしさ」や「外観」を向上させるという、いわゆる「レシピ特許」は、欧米では認められておらず、日本でも「香味の最適化」に関連する特許は拒絶される方向にある。

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特許の審査基準のポイント

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tokkyo_shinsakijyun_point/01.pdf

特許・実用新案審査基準 第 III 部 第 2 章 第 2 節 進歩性

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun_bm/03_0202bm.pdf

特許・実用新案審査基準 第 III 部 第 2 章 第 4 節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun_bm/03_0204bm.pdf

数値限定発明の進歩性審査基準に関する覚書 パテント2016Vol.69No.10

https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201608/jpaapatent201608_072-079.pdf

「技術者のための特許実践講座」(小川勝男、金子紀夫、齋藤 幸一。森北出版。2016年) http://www.morikita.co.jp/books/book/2270

食品業界における知財活動に対する警鐘―電機業界の生き様からの学び―

https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201603/jpaapatent201603_024-035.pdf

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