(17)特許侵害を回避するための特許 ~「楯」となるディフェンシブ特許~

特許侵害から身を守るための「楯」として、特許を防衛目的で出願したり、権利化していくディフェンシブ特許の戦略は、攻める武器として特許権を活用する戦略と同じように重要になってきている。「楯」特許は、侵害回避だけでなく、交渉時の材料として活用される。

特許権の行使というと、差止や損害賠償を武器とした特許戦略(クローズ戦略)が書かれている。また、最近は、オープン戦略としても標準必須特許の活用法として、武器としてどこまで使ることができるか(権利行使の制限)が話題になっている。これらの考え方は、いずれも特許を敵を攻めるための「剣」(swords)としてとらえたものである。

しかし、「剣」を防ぐための「楯」(shields)としての特許の機能については、書き物に取り扱われることはほとんどない。

「楯」特許とは、一義的には、他社特許を侵害することを防ぐ、ディフェンシブ目的の特許であり、特許技術の独占的排他実施を目的としたものではない

「楯」特許に関連してよく出てくるのが「防衛出願」という言葉である。「防衛出願」は、必ずしも権利化を目的としない、時に技術公開を目的とし、審査請求不要な特許出願を差し、どちらかというと後ろ向きな印象を与える見方がほとんどである。しかし、ビジネス(事業)における特許マネージメントにおいて、特許侵害対策は重要な位置を占めており、特許ポートフォリオを考える場合、攻守の両観点からすると、「楯」特許は「剣」特許と同様に戦略的に検討する必要がある。

特許を「楯」として用いるのは、以下のような場合である。

1.特許侵害回避

2.クロスライセンス交渉材料

特許侵害回避を目的とする場合、他社に特許権を取らせたくないコア領域を決め、実施している技術の周辺技術や代替技術の中で、特許性のありそうな技術を特許出願する。

特許出願すれば、出願後1年半には、出願内容が公開される。公開された技術は「公知」技術となるので、公開後以降、他社が同様な技術を特許出願しても、新規な技術ではないと判断されて、当該技術について、他社は特許を取得することができない(「防衛出願」)。

「公開」されることによって、侵害回避の目的を達することができると判断されるのであれば、わざわざ費用をかけて審査請求して、権利化していく必要はないということになる。通常、1つの特許出願だけで、コア領域全体を守ることはできないので、それなりの数の特許出願をするのが一般的である。

考え方としては、こうした防衛出願によって、他社が特許によって権利化できない領域(他社から特許侵害で訴えられない自由な領域)を確保していく。

しかし、他社が特許出願する場合、先行特許の内容を考慮し、それを避けるような形で出願内容を決めていくので、「公開」だけで特許侵害が回避するのは難しいと思われる。

したがって、防衛目的の出願も、基本的には、特許庁の審査を受け、権利化していくべきと思われる。

特許庁の審査の結果、特許として認められれば、当該技術は他社が実施できないことになる。いくつもの特許を保有していれば、他社がコア領域に参入しようと思っても障壁となるため、当該領域を、自社が独占排他的に実施できる領地とし得る。

特許権を取得しておけば、万一、他社から特許侵害であると訴えられた場合に、対抗するための材料にしたり、さらには、クロスライセンス交渉の材料と使うことによって、交渉を有利に進め得る。

もし、特許庁の審査の結果、特許として認められなければ、当該技術は特許性がないと判断し得る。

その場合に、当該技術が抵触するような特許の存在が見つかれば、当該技術は自社が実施できる領域の外にあるとの結論になる。

逆に、抵触特許は存在せず、それにもかかわらず、特許性が認められなければ、他社も特許権を取得できない技術であることが確認できたことになり、したがって、特許侵害を心配しなくてよい自由な技術ということになる。

自由な、もしくは独占的な領域とするため、「パテントマップ」を活用して、既存特許の解析を行い、それによって、出願されていない特許的に空白な技術領域を見つけていく方法がある。

ディフェンシブ特許の例として、ネスレの「ポーション・コーヒー」の例がある。競合を阻止するために、関連技術や組合技術を多数出願し、競合を特許を基にたたき、決定的な競争力を得たということである。

また、キッコーマン社のホームページ(http://www.kikkoman.com/jp/quality/ip/patent.html)には、「他社により権利化されるとキッコーマングループでの実施に大きな制約が生じると判断した場合には、他社による権利化を阻止するための防衛的な出願を行う場合もあります。」と記載されている。

防衛目的の特許取得が増えているという新聞記事もある。

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(引用文献)

Business Strategies and Patent drafting:Offensive & Defensive Patenting & Designaround Techniques (Chapter VIII) http://www.wipo.int/edocs/mdocs/africa/en/wipo_pat_hre_15/wipo_pat_hre_15_t_14.pdf

The patent, an offensive and defensive weapon for the innovative company

http://www.patentes-y-marcas.com/en/resources-patents/patent-articles/node-3507

The sword and the shield: Building an offensive and defensive IP portfolio

https://www.law.com/insidecounsel/2014/05/06/the-sword-and-the-shield-building-an-offensive-and/?slreturn=20171025194605

OFFENSIVE VS. DEFENSIVE PATENTING http://sagaciousresearch.com/blog/offensive-vs-defensive-patenting/

Defensive Patent  http://sagaciousresearch.com/blog/offensive-vs-defensive-patenting/

Patent strategies for R&D companies and the role of patent agencies

http://www.iam-media.com/Intelligence/IP-Lifecycle-China/2015/Articles/Patent-strategies-for-RD-companies-and-the-role-of-patent-agencies

キッコーマングループ 特許

http://www.kikkoman.com/jp/quality/ip/patent.html

眠れる特許51% 防衛目的の取得増える  新・産業創世記 「土俵」が変わる(4)

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ11IJD_Q6A520C1SHA100/

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