「無効資料調査」においても「検索スキル」は大事だが、
特許を潰せる論理を構築する力、
論理を検索式に落とし込んで検索する力や、
ヒットした資料文献を評価(スクリーニング)する力が重要で、
それらは、
「新規性」や「進歩性」についての審査実務の理解度と
関連している。
「特許業界・知的財産業界情報トップスブログエントリー」に、
今は全文が読むことができないが、2つの興味深いブログが一部掲載されており、
以下にその部分を引用する。
「サーチャーいらね~」(https://iptops.com/blog/29558)
「現在、特許庁は審査の効率化という名目のもと、
IPCCなどの外部機関に先行文献を外注しています。
IPCCでは、サーチャーと呼ばれる調査員爺さんたちが先行文献調査をします。
なので、審査官はサーチャーのサーチ結果を受け取って、
拒絶理由を書けばいいだけだから楽だねと思われる人もいるでしょう。
しかし、実態は逆です。
(*_*)審査官のほぼ全員「サーチャーいらね~」と思っています。
なぜか?先行文献 …」
もう一つ、「特許調査の重要点」(https://iptops.com/blog/39750)
「なぜサーチャーは拒絶理由を書ける文献を見つけられないのか?
サーチャーと対話すると、正しいIPC,FI,ワードを全部使ったし、
見つけた文献は全部見たし、本願発明との一致点・相違点も全部検討したので、
私のサーチは問題ありません!という人が非常におおい。
マニュアル通りやったので問題ありません。
いやいや。マニュアル通りやることがサーチの目的じゃないでしょ。
売られているテクニック本もそういう類 …」
サーチャーとは、ここでは「特許調査従事者」の意味である。
特許調査をするには、検索スキルに加えて、
新規性や進歩性などの特許に関する知識を持っていることが必須で、
一般的な検索(サーチ)と本質的に異なる点である。
そして、先行文献調査に要求されるレベルは、
審判官に受け入れられてもらえるような
新規性や進歩性についての検索論理を構築できることが目標になる。
上記ブログの内容が事実かどうかは分からない。
しかし、審査官は検索報告書を考慮して審査をするわけだが、
【4】の事例で見たように、
検索報告書の調査結果がそのまま採用しているわけではないようだ。
「特許調査従事者の現状と今後に関する調査研究報告書」(http://www.inpit.go.jp/jinzai/topic/topic100011.html)や
「特許調査従事者(サーチャー) の育成に向けて」
(http://www.japio.or.jp/00yearbook/files/2012book/12_1_09.pdf)
というサーチャーについての資料がある。
特許調査の目的とレベルイメージとして、
以下のレベル1~レベル3が設定されている。
レベル1; 見習い、「補助を受けながら初歩的調査を遂行できる」
「国内出願・審査請求前先行技術調査」などがこのレベルに相当。
レベル2;一人前、単独で「目的に応じて最適な特許調査ができる」
このレベルで実践することができる特許調査の目的としては、
「無効資料調査」「国内の抵触確認調査」などがこのレベルに相当。
「無効資料調査」とは、事業に支障をきたす他社特許が見つかった際に、
無効化するための資料調査
「抵触確認調査」とは、販売する商品に対して、抵触する可能性のある
他社特許を確認することを指している。
レベル3;熟達者「高度な特許調査に対応できる」、「情報依頼部署に提言・提案ができる」
このレベルで実践することができる特許調査の目的としては、
知的財産法や判例を考慮した「判断」を含めた特許調査や
特許マップの分析・解析を通じた戦略の「提案」など、専門性が高く、
「判断」「提言」「提案」が求められるものになる。
上記を読んでいると、
レベル1は、「補助を受けながら初歩的調査を遂行できる」の 見習いのレベルであり、
レベル1で可能なのが、「国内出願・審査請求前先行技術調査」となっている。
「特許庁調査業務実施者育成研修テキスト 先行技術文献調査実務[第四版]」
(http://www.inpit.go.jp/jinzai/kensyu/kyozai/cjitumu.html)には、
検索式の構築の考え方や検索テクニックが詳しく説明されているが、
市販されている特許調査の指南書の中には、誰にでもできて、
小遣い稼ぎになるというような表現があったり、
また、サーチャーのゴールは、通り一遍の定型作業で検索し、
検索結果を一定の形式の検索報告書にまとめることと
受け取れるものもある。
経験の浅いレベル1のサーチャーが
マニュアル通りに検索式を構築して作成した検索報告書の中には、
調査業務指導者が納入に先立ち、
検索報告書の校閲及び検認をすることになってはいるが、
審査官に受け入れられないものが含まれているのかもしれない。
無効資料調査となると一段高いレベル2の調査能力が要求される。
無効資料調査の対象となる特許は、
「審査請求前先行技術調査」で引っかかってくる技術資料を
回避するような形で特許出願されている可能性が高い。
さらに、特許査定を受けるために、
審査段階での調査で発見された技術資料を回避するように、
補正によって特許請求の範囲を狭めてきているのが通常だからである。
新規性や進歩性の欠如を指摘されないように、
既にスリム化された特許請求の範囲に対して、
「審査請求前先行技術調査」と同じような考え方で調査を行っても
潰せるような技術資料を見つけることは簡単にできるとは思えない。
したがって、
無効資料調査においても、検索スキルは重要だが、
指南書にあるような定型的な検索方法は通用しないと考えた方がよいと
考えている。
特許を潰せる論理を構築して、それを検索式に落とし込んで検索する力や、
ヒットした資料文献を評価(スクリーニング)する力が重要で、
そのためには、「新規性」や「進歩性」についての実務の理解が必要である。
適切な無効資料調査を行うためには、以下が必要だと思っている。
(1)特許の基礎知識
審査基準、出願テクニック、および最低限の判例の理解。
審査・審判の過程で特許請求の範囲は変化する。変化も考慮した検討。
(2)技術の基礎知識
記載内容を理解するために必要な最低限の当該技術分野の技術常識
(3)事業観点の考察力
無効にしたい技術的範囲の理解、抵触した場合にかかる費用、事業影響度
つまり、無効資料調査は、いわゆる、サーチャーの仕事の範囲を超えて、
弁理士の領域と重なってくる。
また、
「無効化可否の判断」や「抵触有無の判断」には、
「事業理解」も必要になる。
こうなると、スキルというよりも個人資質が決め手になってくる。
最後に、サーチャーについて書かれた2つの文献を紹介する。
「次世代の特許調査人材」(https://www.ipcc.or.jp/contest/wp-content/uploads/2017/10/specialtalk2016.pdf)
(発言者は、「特許検索競技大会2015」の最優秀賞受賞者、弁理士や中小企業
診断士等の資格を持つ尼崎浩史氏)
「調査会社は山ほどあり、情報の単価もだんだん安くなって来ています。
加えて、将来的には人工知能が調査するのではないかという話もあり、
ただ調査だけをやっているのでは厳しい時代なのかなと思うのです。
その意味で、この先自分が何をすべきかを模索しているところです。
無効調査の鑑定や侵害調査の判定などで、
専門的な助言をするといった付加価値をつけることは今でもやっていますが、
更に別のことがやりたいという思いもあります。
その1つが中小企業診断士の資格を使った経営的なアドバイスで、
こちらもやりたいと考えています。」
「サーチャー酒井美里×IPFbiz ~特許調査のプロフェッショナル~」
(http://ipfbiz.com/archives/sakaimisato.html)
「酒井:検索テクニックは後からいくらでも身に付けることができるんですが、
テーマを掴むのはセンスのような部分もあって。技術用語の言葉尻とか、
こういう部品だとか、そういう細かいところについフォーカスしがちですけど、
もっと大きな技術的思想のようなものが重要ですよね。
ある意味出願と似ているところがあるのかもしれません。
さらにマクロ的な観点で言うと、
これらに加えて、依頼元の人や企業のバックグラウンドとか、
技術テーマの流れなどを含めた全体俯瞰が不可欠ですね。
検索のコツというのは、ミクロ的な検索とマクロ的な観点とのバランス感覚だと
思っています。」