特許を巡る争い<112>日清オイリオ・和弘食品 中華風味油特許

日清オイリオグループ株式会社と和弘食品株式会社が共有する特許第7389638号は、甜麺醤などの中華醤の香ばしい香りを有し、外観が透明な中華風味油の製造方法に関する。新規性及び進歩性の欠如の理由で異議申立てられたが、主張は認められず、そのまま権利維持された。

日清オイリオグループ株式会社及び和弘食品株式会社が共有する特許第7389638号 “中華風味油の製造方法”を取り上げる。

特許第7389638号の特許公報に記載されている特許請求の範囲は、以下であるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7389638/15/ja)。

【請求項1】

 中華醤を含む食用油脂を一次加熱する工程と、

前記一次加熱によって生じた残渣を除去する工程と、

前記工程で残渣が除去された食用油脂を二次加熱する工程とを含む、

中華醤の風味が付与された中華風味油の製造方法。

【請求項2】~【請求項12】省略

本特許明細書には、“中華醤”について、“本発明の中華風味油の原料として使用される中華醤としては、“特に、豆板醤、甜麺醤、芝麻醤、豆鼓醤、XO醤、沙茶醤、海鮮醤、辣醤、麻辣醤、コチュジャン、牡蠣油からなる群から選ばれる1種または2種以上の中華醤を用いることが好ましい”と記載されている。

また、“食用油脂”について、“本発明の中華風味油の原料との1つである食用油脂は、特に限定されるものではなく”、“特に、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、エゴマ油、パーム油、パーム核油、牛脂、豚脂、魚油、乳脂、米油、落花生油、オリーブ油、鶏油、アーモンド油、ココナッツ油からなる群から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい“と記載されている。

本特許発明は、“中華醤の香ばしい風味を有し、透明な外観を有しているため、様々な食品に使用することができ、当該食品の風味をエンハンスさせることのできる、中華風味油の製造方法を提供すること”を目的としており、 “上記目的を達成するために、中華風味油の製造方法を鋭意検討した結果、中華醤から風味を抽出する際に、食用油脂を用いること、そして、加熱温度を二段階に分けて抽出を行うと、所望の中華風味油が得られることを見出し、本発明を完成させた”と記載されている。

そして、本特許発明を用いることによって、 “中華醤の良好な風味を有する、サラサラとした透明な外観を有する中華風味油が得られるので、様々な食品の風味付けに使用することができる。また、食品に風味付けを行うことで、当該食品の風味をエンハンスさせることができる。特に、本発明の中華風味油は麻婆豆腐や担々麺等の中華料理に関する食品と相性がよい。また、中華醤と中華香辛料の両方で風味付けすることで、調理後にも風味がより持続し、美味しさを増強できる、中華風味油を提供することができる。また、このような中華風味油は他の油脂とブレンドして、味わい深い中華風の油脂組成物(調合油)を作成することもできる”と記載されている。

公開公報に記載されている特許請求の範囲は、以下である(特開2021―93992

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-093992/11/ja)。

【請求項1】

 中華醤を含む食用油脂を一次加熱する工程と、

前記一次加熱によって生じた残渣を除去する工程と、

前記工程で残渣が除去された食用油脂を二次加熱する工程とを含む、

中華醤の風味が付与された中華風味油の製造方法。

【請求項2】~【請求項12】省略

特許公報に記載された特許請求の範囲と同一であり、出願審査請求されたが、拒絶理由は通知されず、出願時請求項は、補正はなされずに、そのまま特許査定をうけている。

公報発行日(2023年11月30日) の半年後(2024年5月30日) 、一個人名で異議申立てられた(異議2024-700507、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2019-229040/10/ja)。

審理の結論は、以下のようであった。

 “特許第7389638号の請求項1~12に係る特許を維持する。”

 異議申立人が申立てた異議申立理由は、次の2つであった。

(1 )“ 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)

本件特許発明1~3、10~12は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であ“る。

(2 ) “申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)

  本件特許発明1~12は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであ“る。

甲第1号証:ヤマダイ株式会社/おいしい話/香味油の話、

Wayback  machineにおける2016年11月5日の記録情報、<https://web.archive.org/web/20161105175058/https://www.newtouch.co.jp/recipe/category/6/>

 以下、本特許請求項1に係る発明(本件特許発明1)に絞って、審理結果を紹介する。

審判官は、甲第1号証には、以下の発明(甲1発明)が記載されていると認めた。

<甲1発明>

「香りをつけたい材料(ねぎ、玉ねぎ、にんにく、生姜、魚介類(海老の頭、煮干)など)を用意し、材料を細かくみじん切り、もしくはぶつ切りにして、サラダ油を鍋に入れ、そこに刻んだ材料を入れ、軽くまぜて、火にかけ、水分を飛ばすようにし微沸騰状態で30分ほどかき混ぜた後、水分の蒸発がふつふつと落ち着いてきたら火を止め、粗熱を取り、布もしくは目の細かいザルなどで濾して、濾した油を鍋に戻し、100度以上で10分程加熱し、油の中の水分を飛ばして作る香味油の製造方法。」“

審判官は、

“甲1発明における「サラダ油」は、本件特許発明1における「食用油脂」に相当し、

甲1発明における「サラダ油を鍋に入れ、そこに刻んだ材料を入れ、軽くまぜて、火にかけ、水分を飛ばすようにし微沸騰状態で30分ほどかき混ぜ」る工程は、本件特許発明1における、材料を含む「食用油脂を一次加熱する工程」に相当する。

また、甲1発明における「水分の蒸発がふつふつと落ち着いてきたら火を止め、粗熱を取り、布もしくは目の細かいザルなどで濾」す工程は、本件特許発明1における「前記一次加熱によって生じた残渣を除去する工程」に相当する。

さらに、甲1発明における「濾した油を鍋に戻し、100度以上で10分程加熱し、油の中の水分を飛ば」す工程は、本件特許発明1における「前記工程で残渣が除去された食用油脂を二次加熱する工程」に相当する。

また、甲1発明における「香味油」は、本件特許発明1における「風味油」に相当する“と判断した。

そして、審判官は、本件特許発明1と甲1発明とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

<一致点>「材料を含む食用油脂を一次加熱する工程と、前記一次加熱によって生じた残渣を除去する工程と、前記工程で残渣が除去された食用油脂を二次加熱する工程とを含む、風味油の製造方法。」

<相違点> 本件特許発明1は、「中華醤を含む食用油脂を一次加熱する工程」を含む「中華醤の風味が付与された中華風味油製造方法」であるのに対して、甲1発明には、そのような特定がない点。

審判官は、上記相違点について、以下のように判断した。

・“甲1発明には、サラダ油に香りを付けたい材料として「ねぎ、玉ねぎ、にんにく、生姜、魚介類(海老の頭、煮干)」が例示されているものの、中華醤を選択することは記載も示唆もされていないため、上記相違点は実質的な相違点である。

そして、甲1及びその他の証拠においても、甲1発明の香味油の香りをつけたい材料として、中華醤を採用する動機づけとなる記載はない。

異議申立人は、異議申立書において、以下のa及びbを主張している。

.“「課題・効果の点についても、甲1発明においては、香りをつけたい材料の風味を油に移しこむことで香味油を調製するするであり、本件特許発明1では、材料である中華醤の風味を有する香味油を調製することであるので一致する。」”

.「本件特許発明1については、香味油の対象を“中華醤”としているが、甲1発明においては”香りをつけたい材料”としており対象を特定していない。ここで、香りをつけたい材料としては種々の食品を選択できるのは単なる設計事項であり周知技術である。香りをつけたい材料について “中華醤”を選択することは何らの困難性を有するものではない。」“

・しかし、“甲1及び他の証拠のいずれにも、中華醤を含む油を加熱する工程及び前記加熱によって生じた残渣を除去する工程を含む香味油の製造方法についての記載はなく、上述したとおり、甲1発明の香味油の香りをつけたい材料として中華醤を選択する動機がない。”と審判官は判断した。

・そして、“本件特許発明1”の奏する効果は、“「一次加熱することによって、中華醤の風味を食用油脂に十分移行させることができ」”、“「残渣を除去することによって、サラサラとした透明な外観を有する中華風味油を得ることができ」”、「二次加熱することによって、中華醤の風味に香ばしい香りを付与し、水分を除去することができる」“というものであり、”そのような効果は、甲1及び他の証拠のいずれにも記載されたものではない。

 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。“と判断した。

以上の理由から、審判官は、“本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない”と結論した。