(22)特許権行使の制約要因;労力、時間、費用

自社の特許権が侵害されているのを発見しても、相手方に警告するまでには様々な検討が必要であり、すぐに権利行使できるわけではない。訴訟を起こしても、実際に差止請求権や損害賠償権を行使できるようになるまでには、かなりの時間・費用を要する。

特許権の侵害を発見した場合に権利行使に至るまでの一般的な手順は、以下のようである。

ステップ1.特許権侵害の発見

相手の実施状態の把握(侵害品等の証拠の確保、損害賠償請求のための侵害品の販売ルートや数量等の把握)

ステップ2.自分の特許の権利範囲と相手の実施内容との比較

a.自分の特許権が無効でないこと(有効であること)の確認

b.自分の特許の権利範囲と相手の実施内容とを比較し、権利範囲内であるか検討

特許法第104条の3には、「(特許権者等の権利行使の制限)特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。」となっており、自分の特許が無効な特許であれば、権利行使できないことになる。

ステップ3.警告書の送付

ステップ2で特許侵害している確信が持てたとしても、一般には、まず警告書を送付する。

ただし、たとえば、以下のような場合には、別の対処方法を検討する。

a.自社が権利行使をすると、相手方から逆に、相手方が保有する特許権に基づき権利行使を受けるリスクがある場合

b.市場規模の拡大がまずは優先されるような場合

市場が拡大するまで静観し、その後、侵害者に対し損害賠償請求したり、ライセングやクロスライセンスする方法が考えられる。

c.侵害者が自社の顧客である場合

ステップ4.交渉

相手方が警告に従い、侵害行為の中止や設計変更、もしくはライセンス料を支払う場合には、和解で解決する。

ステップ5.訴訟

交渉で解決しない場合には、訴訟を起こす。

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/training/textbook/pdf/Patent_Dispute_and_Countermeasures2011_jp.pdf

http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/tokkyo/index/kenrikousi/  

http://www.yu-kobalaw.com/asset/text.pdf を参考)

特許侵害されていると思っても、上記のごとく検討すべきことは多く、簡単に権利行使できるわけではない。そして、訴訟は、時間と費用がかかるため、最後の手段と位置付けられている。

まず、訴訟を起こした場合、裁判所での審理期間は、知的財産高等裁判所(知財高裁)の公表している資料によれば、知的財産権関係(特許以外も含む)の訴訟の平均審理期間は、2016年で第一審13.3ヵ月、控訴審7.8ヵ月、合計すると21.1カ月、2年近くになる。

さらに、訴訟に先立って特許権の有効性を争う無効審判や異議申立が請求された場合、平均審理期間は、2016年でそれぞれ10.5ヵ月、5.8ヵ月となっている。

したがって、侵害発見から始まって、最終的に特許権の侵害が認められるまでには、かなりの時間を要することになる。

また、侵害訴訟には、裁判所への申立手数料と弁護士費用が必要となる。

申立手数料の金額は訴額に応じて計算される。

弁護士費用は、500万円~2000万円であり、非常に複雑な案件の場合は5000万円。

特許庁の平成28年度の調査報告書では、弁護士費用を含む訴訟に必要な費用を、弁護士および企業へのアンケート調査した結果が記載されている。

たとえば、製造販売の差止めと、2000 万円の損害賠償を求めて訴訟を提起したケースを想定した場合、着手金・報酬金方式では、着手金265万円、これに加え、和解成立の場合はさらに301万円。また、判決によって差止と損害賠償の支払いが認められた場合では、642万円の費用がかかる。タイムチャージ方式では1461万円の費用がかかる。

また、弁護士費用以外の費用として、鑑定費用、立証用の実験費用、特許の有効性の調査、および侵害成否調査が挙げられており、これらの費用は約200万円~約500万円(平均値)。

そして、敗訴した場合に訴訟費用を通常負担するのは、敗訴側当事者である。

サトウの切り餅事件の場合、弁護士・弁理士費用として5352万円が認められており、敗訴側には、訴訟費用も大きな負担となる場合がある。

特許権が侵害されているのを発見しても、実際に差止請求権や損害賠償権を行使できるようになるまでには、かなりの労力と、時間・費用とを要する。

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(引用文献)

特許紛争と対策

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/training/textbook/pdf/Patent_Dispute_and_Countermeasures2011_jp.pdf

特許権侵害を巡る紛争の全体像 – BUSINESS LAWYERS

https://business.bengo4.com/category5/article183

4.2.1 侵害調査~自社特許の他社による侵害

http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/tokkyo/index/hisingai_chousa/

4.2.2 権利行使の判断と方法~自社特許の他社による侵害

http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/tokkyo/index/kenrikousi/

特許権行使の方法 http://www.tokkyokeiyaku.com/action2.html

特許権侵害紛争の解決  http://www.yu-kobalaw.com/asset/text.pdf

知的財産高等裁判所 統 計

http://www.ip.courts.go.jp/documents/statistics/index.html

知的財産権関係民事事件の新受・既済件数及び平均審理期間(全国地裁第一審)

http://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/2017_N_stat03.pdf

知的財産権関係民事事件の新受・既済件数及び平均審理期間(全国高裁控訴審)

http://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/2017_N_stat04.pdf

特許行政年次報告書2017年版 第1章 国内外の出願・登録状況と審査・審判の現状 5 審判 (1)審判の現状 ②審判の審理動向

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2017/honpen/0101.pdf

日本における特許権行使 知財研紀要 2011 Vol.20

https://www.iip.or.jp/summary/pdf/detail10j/22_09.pdf

平成28年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究

特許権侵害訴訟における訴訟代理人費用等に関して

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2016_13_youyaku.pdf

平成28 年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書

特許権侵害訴訟における訴訟代理人費用等に関する調査研究報告書

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2016_13.pdf

平成23年(ネ)第10002号 特許権侵害差止等請求控訴事件判決文

http://www.wada-pat.jp/pdf/jirei28-1.pdf

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