特許を巡る争い<22>森永製菓株式会社・氷菓の色素凝集抑制方法特許

森永製菓の特許第6368026号は、アイスシャーベットなどの氷菓などにおける色素の凝集抑制方法に関する。一個人名で異議申立てされ、新規性欠如及びサポート要件違反の取消理由通知が出されたが、森永製菓は一部請求項を訂正して、取消理由を解消し、権利維持された。

森永製菓の特許第6368026号『着色された水溶液の調製における色素凝集の抑制方法』を取り上げる。

特許第6368026号の特許請求の範囲は、以下の通りであるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6368026/C18A0112712DB2C9BCD1160BAE390649309618F41FCF1C5D4FF2575ADBFF8F58/15/ja)。

【請求項1】

着色された水溶液の泡立ちにおける泡沫部分での色素の凝集を抑制する方法であって、色素を、タマリンドシードガム、グァーガム、及びローカストビーンガムから選ばれる1種又は2種以上の多糖類と共に溶解して着色した水溶液を調製することを特徴とする、方法。

【請求項2】~【請求項4】省略

【請求項5】

着色された水溶液の調製、及び調製された水溶液の泡立ちを惹起する操作、及び該操作を経た水溶液の凍結を含む、氷菓の製造方法であって、

前記水溶液が、タンパク質、ポリフェノール、及び食物繊維から選ばれる1種または2種以上を含み、

前記水溶液の調製は、色素を、タマリンドシードガム、グァーガム、及びローカストビーンガムから選ばれる1種または2種以上の多糖類と共に水に溶解することを特徴とする、氷菓の製造方法。

【請求項6】~【請求項10】 省略

氷菓”は、一般には“アイスキャンディ”や“アイスシャーベット”などを指す(https://www.forth.go.jp/keneki/osaka/syokuhin-kanshi/foodstandard_hyouka.html)。

本特許明細書によれば、従来、“着色された氷菓の工業的生産”においては、“氷菓の原料である着色された水溶液に強い攪拌力が加わったり、タンクへの投入時に衝撃が加わったりする際に、水溶液が泡立つことがあり、泡立った部分(泡沫部分)に色素が凝集するという問題”があった。

しかし、本発明を用いれば、”飲食品の製造において、着色された水溶液の泡沫部分への色素の凝集を抑制する“ことができ、“氷菓や飲料に代表される飲食品の工業的生産において、泡立ちにおける泡沫への色素の凝集を抑制し、外観に優れた飲食品を製造することが可能となる”と記載されている。

使用する色素について、“スピルリナ色素、カロテン色素、紅麹色素及びベニバナ黄色素から選ばれた色素”が好適である旨、記載されている。

タマリンドシードガム、グァーガム、及びローカストビーンガムは、植物種子由来の“増粘剤”であるhttps://www.e-sousyoku.com/pages/guest/maker/colloid/colloid6.html)。

“水溶液を着色する際にタマリンドシードガム、グァーガム、及びローカストビーンガムから選ばれる1種又は2種以上の多糖類を添加することで、泡沫部分に色素が凝集することを防ぐことができる”と記載されている。

公開公報(特開2019-1108029)の特許請求の範囲は、以下の通りであるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-110802/C18A0112712DB2C9BCD1160BAE390649309618F41FCF1C5D4FF2575ADBFF8F58/11/ja)。

【請求項1】

着色された水溶液の泡立ちにおける泡沫部分での色素の凝集を抑制する方法であって、  色素を、タマリンドシードガム、グァーガム、及びローカストビーンガムから選ばれる1種又は2種以上の多糖類と共に水に溶解して着色された水溶液を調製することを特徴とする、方法。

【請求項2】~【請求項4】省略

【請求項5】

着色された水溶液の調製、及び調製された水溶液の泡立ちを惹起する操作を含む、飲食品の製造方法であって、

前記水溶液の調製は、色素を、タマリンドシードガム、グァーガム、及びローカストビーンガムから選ばれる1種又は2種以上の多糖類と共に水に溶解することを特徴とする、飲食品の製造方法。

【請求項6】~【請求項11】省略

請求項1は、拒絶理由がなく、そのまま特許査定されている。

請求項5は、飲食品が“氷菓”に限定され、“凍結”操作の追加、“水溶液”がタンパク質等を含有する水溶液との限定がなされて、特許査定されている。

本特許は、発明品が販売されていたが、新規性喪失の例外(特許法第30条第2項)の適用を受けて出願されており(出願日平成29年12月22日)、平成30年1月15日に早期審査請求、平成30年7月3日に特許査定を受けている。

このため、公開公報の公開日(令和1年7月11日)より前の平成30年8月1日に特許公報が発行されている。

特許公報発行後のほぼ半年後(平成31年1月29日)、一個人名で異議申立てされた(異議番号2019-700064 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-110802/C18A0112712DB2C9BCD1160BAE390649309618F41FCF1C5D4FF2575ADBFF8F58/11/ja)。

結論は、以下のようであった。

特許第6368026号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[5~7]について訂正することを認める。

特許第6368026号の請求項1~10に係る特許を維持する。

異議申立人は、全請求項に対して、新規性欠如、進歩性欠如、記載要件不備(サポート要件違反等)等を主張した。

審判官は、令和1年5月7日付けで、請求項5~7に係る発明は、刊行物1(特開2007-54040号公報)に記載された発明であるとして新規性欠如(特許法第29条第1項第3号)しているとして、請求項1~10はサポート要件違反があるとして、取消理由通知した。

これに対して、森永製菓は、請求項5~7を、以下のように訂正した。

【請求項5】

着色された水溶液の調製、及び調製された水溶液の泡立ちを惹起する操作(凍結及び攪拌を同時に行う操作を除く)、及び該操作を経た水溶液の凍結を含む、氷菓の製造方法であって、

前記水溶液が、タンパク質、ポリフェノール、及び食物繊維から選ばれる1種または2種以上を含み、

前記水溶液の調製は、色素を、タマリンドシードガム、グァーガム、及びローカストビーンガムから選ばれる1種または2種以上の多糖類と共に水に溶解することを特徴とする、氷菓の製造方法。

【請求項6】~【請求項7】省略

特許査定された請求項5は、“(凍結及び攪拌を同時に行う操作を除く)”を追加する、除くクレームの形式に訂正された。

以下、訂正後の請求項5について、以降の審判官の判断を示す。

本件発明5(請求項5に係る発明)と引用発明1(刊行物1:特開2007-54040号公報)に記載された発明)とは、以下の点で一致するとした(特開2007-54040  https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2007-054040/0A360A6D554C55265D3055B8C2A345BA2A118615ACAA6DBC19D9AE99ED4A98D6/11/ja)。

「着色された水溶液の調製、及び調製された水溶液の泡立ちを惹起する操作、及び該操作を経た水溶液の凍結を含む、氷菓の製造方法であって、

前記水溶液の調製は、色素を、タマリンドシードガム、グァーガム、及びローカストビーンガムから選ばれる1種または2種以上の多糖類と共に水に溶解することを特徴とする、氷菓の製造方法。」

しかし、以下の相違点1-2などの点で相違するとした。

“相違点1-2:調製された水溶液の泡立ちを惹起する操作が、本件発明5では、「(凍結及び攪拌を同時に行う操作を除く)」ものであるのに対し、引用発明1では、凍結及び攪拌を同時に行う操作である点“

審判官は、上記相違点1-2について、引用発明1の“水溶液の泡立ちを惹起する操作は、原料溶液の凍結と攪拌を同時に行う操作といえる”が、“本件発明5においては、調製された水溶液の泡立ちを惹起する操作が、「(凍結及び攪拌を同時に行う操作を除く)」ものであ”り、“相違点1-2は実質的な相違点である”などと判断した。

そして、“本件発明5~7は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない”と結論し、異議申立人の主張を採用しなかった。

もう一つの取消理由であったサポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)についての審判官の判断は以下のようなものであった。

“発明の詳細な説明には、請求項の内容の実質的な繰り返し記載の他、以下の記載がある。”

ア 背景技術及び発明が解決しようとする課題に関する記載

イ 色素、多糖類、泡立ち惹起成分及び氷菓の実施の態様に関する記載

ウ 実施例に関する記載

そして、実施例1~14には、“着色された水溶液の泡沫部分への色素の凝集を抑制する方法、該泡沫部分への色素の凝集が抑制された氷菓の製造方法及び該製造方法により氷菓を得たことが客観的な評価を伴って記載されている。”

“本件明細書の記載に接した当業者であれば、飲食品の製造において、着色された水溶液の泡沫部分への色素の凝集を抑制する方法、氷菓の製造において、着色された水溶液の泡沫部分への色素の凝集を抑制する氷菓の製造方法、及び、氷菓の製造において、着色された水溶液の泡沫部分への色素の凝集が抑制された氷菓をそれぞれ提供し得ると理解できるといえ、本件発明1~10の前記課題を解決し得ると認識できるといえる”と判断した。

そして、“本件発明1~10は、本件発明1~10の前記課題を解決できるといえ、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる”と結論し、異議申立人の主張を採用しなかった。