【28】無効資料調査 ~周辺特許と周辺情報の調査~

特許分類とキーワードとを利用した一般的な検索で無効資料を見つけられなかった場合、当該特許の周辺特許調査(発明者検索、企業名検索)や周辺情報調査(発明品検索)で有効な無効化資料が見つかる場合がある。

特許分類とキーワードとを利用した一般的な検索で特許無効を主張する技術文献を見つけられなかった場合の一つの調査方法として、無効化した特許の周辺情報を調査するという考え方がある。

具体的には、当該特許の“発明者“や”権利者(企業)“の関連特許(周辺特許)、当該特許技術を利用した”発明品“などの特許以外の情報(周辺情報)の観点からの調査である。

特許出願時や審査過程で特許文献調査が行われていれば、それらの調査において、新規性欠如を主張できるような特許文献が見逃されている可能性は非常に低いと考えられる。

ただし、当該特許の発明者や特許権を有する企業が、当該出願前に公開した特許文献の中には、進歩性否定の材料となり得る文献が存在する可能性が考えられる。

技術開発は、点ではなく、特定の技術思想の下に、継続して進められるのが通常である。

当該特許出願以前に公開された特許出願の中に、当該特許の技術思想を示唆するような記載がある可能性を考えて、当該特許の発明者や権利企業の関連特許を調査することが考えられる。

周辺特許に記載されている発明の効果や実施例を詳しく見ていくと、当該特許の技術思想を示唆する記載(表現や言葉を変えている場合もある)や当該特許に近い実施例の記載があるかもしれない。

そうした文献が見つかれば、他の文献と組み合わせることによって、進歩性を否定する主張ができるかもしれない。

発明者の検索では結婚による姓の変更や、企業名検索の場合は持ち株会社化やM&Aなどによる社名変化も考慮しておく。

ただし、特許出願時や審査過程で特許文献調査が行われていれば、無効性を主張できるような特許文献が見逃されている可能性は、特に新規性に関する特許文献については、存在するとは考えにくい。

そう考えてくると、新規性欠如を主張できそうな技術文献を見つける方法としては、特許文献以外の周辺情報の調査が主となる。

特許法第29条第1項には、特許出願前に公然知られた発明、公然実施をされた発明、刊行物に記載された発明は、新規性が欠如しているとして、特許されないと規定されている。

しかし、特許法第30条に、“発明の新規性喪失の例外規定”がある。

発明者が自らの発明を公開した後に出願した場合でも、特定の条件下で公開され、一定期間内に出願された場合には、公開していても発明の新規性が喪失しないものとして取り扱う規定である。

例えば、発明品である商品を販売等によって公開していた場合でも、その販売開始日が1年以内に出願し、同時に新規性喪失の例外の手続きをすることで、特許を取得する可能性が出てくる。なお、平成30年より前は、新規性喪失の例外期間は6か月であった。

この例外規定を受けられる特定の条件に該当する『公開の事実』には、以下のものがある。

3.3.1 試験の実施により公開された場合

3.3.2 刊行物(書籍、雑誌、予稿集等)等への発表により公開された場合

3.3.3 電気通信回線を通じて公開された場合(予稿集や論文をウェブサイトに掲載した場合、新製品をウェブサイトに掲載した場合、発明した物を通販のウェブサイトに掲載した場合等

3.3.4 集会(学会・セミナー・投資家や顧客向けの説明会等)での発表により公開され

た場合

3.3.5 展示(展示会・見本市・博覧会等)により公開された場合

3.3.6 販売、配布により公開された場合

3.3.7 記者会見・テレビやラジオの生放送番組への出演等により公開された場合

3.3.8 非公開で説明等した発明がその後権利者以外の者によって公開された場合(非公

開で取材を受け、後日その内容が新聞・テレビ・ラジオ等で公開された場合等)

(発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/hatumei_reigai.html

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/hatumei_reigai/h30_tebiki.pdf

無効資料調査の観点から見れば、上記したような出願前に公開された特許以外の情報に発明の内容が記載されていた場合には、新規性を喪失することになる。

こうした観点の調査としては、技術部門や特許部門が関与しきれない可能性の高い、インターネット情報や新聞記事・雑誌記事を、技術用語だけでなく、商品特徴や商品名での検索が考えられる。

たとえば、発明者が出願前に不注意にしてしまった技術発表がある。

また、商品告知のニュースリリース、新聞記事や雑誌記事(新製品紹介)など発明を実施した商品に関する公開情報の中には、特許部門のチェックが漏れた情報が存在する可能性がある。

新製品展示会のパンフレットや資料、インターネットで公開された情報の中に当該発明に関する記載があるかもしれない。

情報の公開日が不明確な場合があるが、インターネット情報では、“Internet Archive”で公開日を特定したり、商品の場合、例えば、アマゾンなどの商品取扱開始日やJANコード取得日などを調べて、公開日を特定していく必要がある。

単行本や新聞雑誌の公開日の情報入手方法として、国立国会図書館の複写サービス(https://www.ndl.go.jp/jp/copy/index.html)が便利である。

ヨーロッパでは、新規性喪失の例外の規定が厳しく、ヨーロッパにも出願されている場合には、審査経過が参考になる場合があり得る。

逆に言えば、ヨーロッパで権利化された特許を無効化する戦術として、発明者や権利者が出願前に公開した情報を調査することが有効な場合があり得るということになる。

私が経験した例では、商品販売部門が、出願日より前に雑誌に技術内容を投稿し、掲載されていたことがあった。

ただし、出願前の社外への技術情報公開は、特許部門などによって、厳しき管理されるようになってきており、発明者や企業名の検索で情報漏れが見つかることは難しくなっている。