【25】無効資料調査 出願テクニックに対抗する ~異質の効果と用途発明~

従来知られている発明の作用効果とは「異質な効果」を前面に出して、進歩性の判断において有利にしようとする考え方がある。また、用途限定を構成要件とする「用途発明」がある。

「効果」や「用途」を特徴要件とする特許の無効資料調査は、検索キーに「効果」や「用途」に係る用語を含まない検索式で検索し、「物」自体が公知物であることを主張できる先行文献を見つけられるかがポイントとなる。

特許権の不安定さを生む要因のひとつとして、以前に出願テクニックを取り上げた(http://patent.mfworks.info/2018/04/09/post-552/)。

特許出願において、従来知られている発明の作用効果とは「異質な効果」を前面に出して、「異質な効果」が奏される発明であるから、発明の「動機付け」がないと主張し、進歩性の判断において有利にしようとする考え方がある。

また、効果から導きだされる用途を発明特定事項(構成要件)に含むクレーム形式が、「用途発明」である。

用途発明や異質の作用効果を訴求する発明の無効化を検討する際に、まず、行わなければならないのが、請求範囲(権利範囲の)の画定である(【12】無効資料調査の前段階(3)発明の理解;請求範囲(権利範囲)の画定 その2 http://patent.mfworks.info/2018/12/10/post-1800/)。

そして、侵害リスクがあると考える商品(イ号製品)などとの対比によって、当該特許の技術的範囲(権利範囲)に含まれるかどうかを検討し、無効化する必要のある技術的範囲を明確にする。

この際、特許請求の範囲に用途に係る記載(用途限定)がある特許については、用途部分の権利範囲の解釈に注意する必要がある。解釈の仕方によって、無効資料調査の考え方が変わってくる。

まず、用途発明の審査基準を理解しておく必要があるhttps://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0204.pdf)。

審査基準には、”用途発明とは、(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう。”と定義されている。

そして、”(i) 作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載や、(ii) 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載がある場合、請求項中にそうした記載があったとしても、それらの記載がその物を特定するのに役に立っていないと判断される場合には、物そのものの発明と認定される。”と書かれている。

具体例として、”化合物、微生物、動物又は植物で、『「~用」といった用途限定が付された化合物(例えば、用途 Y 用化合物 Z) については、用途限定のない化合物(例えば、化合物 Z)そのものと解釈する”が、その理由は、”このような用途限定は、一般に、化合物の有用性を示しているにすぎないからである”と説明されている。

したがって、用途限定の記載があっても、用途限定のないものと解釈される場合があることになる。

もう一つ注意しなければならないのは、用途発明の権利行使できる技術的範囲(権利範囲)の解釈であり、大きく2通りの考え方がある(『用途発明の権利範囲に関する一考察』 https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201605/jpaapatent201605_066-071.pdf)。

一つは、用途が販売の際に明示されている必要があるという考え方、

もう一つは、用途が明示されているかどうかにかかわらず、その用途に使用できる全ての物が権利範囲に含まれるという考え方である。

前者の考え方では、用途発明は「物」を新規に発明したのではなく、“公知の「物」の用途自体が発明であるという立場”と同じで、“「物」が当該「用途」に用いることを明記して販売していなければ”、権利侵害しないことになる。

つまり、クレームされた用途が、イ号製品の包装容器や広告等に明記されていなければ、その用途に用いるために販売しているのではないから、権利侵害にあたらないとの主張ができることになる。

一方、後者の考え方は、“「物」がクレームに記載の用途に用いることが出来さえすれば,「物」の包装や広告等に記載がなくとも権利侵害を構成する”という考え方である。

イ号製品の“包装や広告に当該「用途」が記載されていない場合だけでなく,当該「用途」とおよそかけ離れた用途が記載されていても,当該「用途」にその「物」が使用できさえすれば権利侵害が成立する”という考え方になる。

上記文献には、判例の検討から、

“被告がその用途に用いられるものとして製造・販売されることを推認する事情がある場合,被告が反証を立証しない限り,その推認は覆らない。”、

そして、

”「被告の実施態様から用途が推認されれば,当該用途が認定されうる。」といえる。従って,用途を効能に記載しないというだけでは権利行使を免れない,という結論になりそうである。“と書かれている。

別の文献(『「用途発明」の権利範囲について(直接侵害・間接侵害)』 https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201701/jpaapatent201701_077-087.pdf)には、

これらの裁判例に照らすと,「用途発明」の定義の問題として,用途以外の発明特定事項に特徴がない発明については,当該用途に使用されるものとして販売しなければ(直接)侵害にならないのに対し,他方,用途以外の発明特定事項に特徴がある発明については,当該用途に使用されるものとして販売されなくても(直接)侵害になりうるという類型化が可能であると考えられる。”と書かれている。

この考え方にしたがえば、用途以外の発明特定事項(構成要件)に特徴がない発明と解釈し得る場合と、用途以外の発明特定事項(構成要件)に特徴があると解釈し得る場合とでは、無効化に対する考え方が異なってくることになってくる。

たとえば、用途発明において、用途以外の構成要件に新規性がないと主張し得る先行文献を見つけられた場合である。

“用途以外の発明特定事項に特徴がない発明については,当該用途に使用されるものとして販売しなければ(直接)侵害にならない”という考え方を根拠に、イ号製品が公知物であると主張できるなら、用途をうたわなければ権利侵害しないという解釈もなし得る。

この解釈が可能とすれば、権利侵害しないのであるから、無効化の必要性はないという結論もあり得ることになる。

無効資料調査では、その上で、さらに用途に進歩性がないということを主張できる先行文献を検索するという進め方となる。

「異質の効果」を訴求する特許発明についても、「用途」が「効果」に変わるけれども、同様な考え方で無効資料調査をすればよいと考えられる。

「異質の効果」に対しては、用途以外の発明特定事項(構成要件)が同一である先行技術が見つけれれば、先行技術においても、異質の効果が奏されていた蓋然性が高いという主張をしていくことが考えられる。

一方、用途以外の発明特定事項(構成要件)に特徴がある発明の場合でも、無効化できるかどうかは、物としての新規性がないことを主張し得る先行文献を見つけられるかどうかがポイントになる。

上記したような考え方に立てば、「用途」や「効果」を特徴要件に特徴要件とする特許発明についての無効資料調査は、まずは、用途や効果を検索キーから外して検索することから始めるということになる。

無効化したい特許の用途以外の構成要件がすべて記載されている先行技術文献を見つけていくことになる。

そして、物としての新規性が否定できれば、新規用途や異質の効果には進歩性が欠いていることを主張できる先行技術文献を検索することになる。

「用途」や「効果」を特徴要件とする無効資料調査においては、用途や効果を表現する「文言」にとらわれすぎないことがポイントになる。

特許調査マニュアルには、以下のような記載がある(『平成30年度調査業務実施者育成研修 検索の考え方と検索報告書の作成』 https://www.inpit.go.jp/content/100798506.pdf)。

”検索観点の欠落を防止するため、本願発明の特徴を、複数の「検索の観点」から把握すること、本願発明の特徴を広い観点で把握すること(実施例に囚われずに把握すること、技術的課題から把握すること、用途(もの、方法)を限定せずに把握すること)が必要である。”

同一用途や効果の別の呼び方、実質的に同一な用途や効果、類似の用途や効果)や、技術課題の共通性を考慮した検索キーの用語の選択に留意する必要がある。

ただし、用語の解釈も一筋縄ではいかない場合もある。

特願平8-66079号(特開平9-255548号)「シワ形成抑制剤」の審決取消訴訟では、「シワ形成抑制」と「美白化粧料」との違いが争点となった。

知財高裁は、「アスナロ抽出物を有効成分とする皮膚外用組成物」である点では先行発明と同じであるが、「美白」と「シワ形成抑制」とは、作用メカニズムや使用・販売実態に明確に区別されること、「出願時の技術常識」をもとにすると、「シワ形成抑制」作用は「美白」作用からは期待できず、新規な効果の発見であるとして、特許庁の主張を斥けた。

((30)特許権の不安定さを生む要因 その5;言葉(文言)の解釈 http://patent.mfworks.info/2018/03/26/post-548/

また、無効化に対する特許権者の取り得る対応として、用途発明のクレーム形式から、方法の発明へのクレーム形式に変更する可能性がある。この可能性も考慮して、無効資料調査を行う必要がある。