【18】進歩性欠如の考え方:容易想到の論理構築

進歩性欠如の理由での無効化には、進歩性を否定する方向に働く要素と肯定する方向に働く要素との両方を理解した上で、当業者が発明を容易に想到できたことを主張できる論理を構築(論理付け)できる先行文献を見つけられることが必要である。

「進歩性」についての審査基準は以下のようである。

「審査官は、請求項に係る発明の進歩性の判断を、先行技術に基づいて、当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたことの論理の構築(論理付け)ができるか否かを検討することにより行う。」

そして、

「当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたか否かの判断には、進歩性が否定される方向に働く諸事実及び進歩性が肯定される方向に働く諸事実を総合的に評価することが必要である。審査官はこれらの諸事実を法的に評価することにより、論理付けを試みる。」

さらに、進歩性の判断方法として、

「審査官は、先行技術の中から、論理付けに最も適した一の引用発明を選んで主引用発明とし、以下の(1)から(4)までの手順により、主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否かを判断する。審査官は、独立した二以上の引用発明を組み合わせて主引用発明としてはならない。」

となっている。

具体的に説明する。

無効化したい特許の請求項1が、A B C Dの4つの要件(発明特定事項)から構成された発明であるとする。

主引用文献(主引用発明)には、A、B、Cが記載されているが、Dは記載されていない。

一方、副引用文献(副引用発明)には、CとDが記載されている

上記を対比表にまとめると、下表のようになる。

発明の構成要件(発明特定事項)の記載
要件A 要件B 要件C 要件D
無効化したい特許発明
主引用発明 ○(有) ○(有) ○(有) ×(無)
副引用発明 ×(無) ×(無) ○(有) ○(有)

なお、対比表については、以前に説明した(https://patent.mfworks.info/2018/12/23/post-1279/)。

ここで、たとえば、下記のような論理の構築(論理付け)ができれば、無効化できる可能性が出てくる。

無効化した特許発明の要件Dは、主引用発明には記載されていない。

しかし、副引用発明には、主引用発明に記載されたCとDが記載されている。

発明者は、主引用発明と副引用発明を見て、主引用発明に副引用発明に記載された要件Dを取り込もうと容易に想いつく。

したがって、要件A~Dの4つの要件から構成される特許発明は、2つの引用発明から

容易に想い付く(容易想到性の)発明である。

「容易想到性」を主張するためには、以下の「進歩性が否定される方向に働く要素」を理解しておく必要がある。

(1)技術分野の関連性

(2)課題の共通性

(3)作用、機能の共通性

(4)引用発明の内容中の示唆・主引用発明からの設計変更等・先行技術の単なる寄せ集め

「容易想到」の論理構築がしやすいのは、以下である。

1.引用文献中に、主発明と副発明とを組合せることの示唆がある(上記(4))

2.無効化したい特許と引用発明とは、課題又は作用効果が共通している(上記(2)(3))

いずれも、主発明と副発明とを組合せる「動機付け」があることを主張できるからである。

「先行技術の単なる寄せ集め」は、「動機付け」があることを主張することが難しい。

ここで注意したいのは、「論理付け」は「法的に評価」することになっており、必ずしも技術的な評価(技術的な難易度)ではないということである。引用文献の記載をもとに、論理付けできるかどうかということであって、文言解釈が重要となるで。

上記の「進歩性が否定される方向に働く要素」のうち、(1)技術分野の関連性や(4)の主引用発明からの設計変更等・先行技術の単なる寄せ集めによる進歩性欠如の主張は、特許権者の反論が予想される。

反論は、進歩性が肯定される方向に働く要素があるとの主張になる。

具体的には、以下の2つが想定されるので、この点も考慮して、論理構築する必要がある。

1.有利な効果(別異の効果、顕著な効果)の主張

2.阻害要因があるとの主張 例:副引用発明が主引用発明に適用されると、主引用発明がその目的に反するものとなるような場合

上記の「主引用発明からの設計変更等」に関連するのは、「自明の課題」である。

審査基準には、「審査官は、主引用発明として、通常、請求項に係る発明と、技術分野又は課題が同一であるもの又は近い関係にあるものを選択する。(注1) 自明な課題や当業者が容易に着想し得る課題を含む。」と説明されている。

食品分野で言えば、たとえば、「自明の課題」としては、食品の香味を改善すること、「当業者が容易に着想し得る課題」としては、通常、食品分野で検討されている使用調味料の量やpHを変えて、最適な味になるように最適化すること(単なる最適化)が該当すると思われる。

進歩性欠如の無効理由で潰せるようになるためには、検索テクニックよりも、進歩性欠如の論理、それも審判官が受け入れてくれるレベル、を構築し、構築した論理に適合する文献を検索で見つけ出す能力が要求される。