(20)特許権を行使するための費用は高いか、安いか?

特許権を権利行使するために必須の費用は、特許権取得費用と、特許権維持費用とであり、いずれも特許庁に支払う。特許の専門家の弁理士に依頼して出願した場合、さらに弁理士費用がかかる。費用は、特許権から直接的に得られるライセンス収入や事業収益だけでなく、防衛的な意義も含めて、判断していく必要がある。

 

特許権を行使するためには、まず、特許権を取得することが必要であり、取得した後は権利を維持するための費用が必要になる。

特許権を権利行使することによって独占排他的に事業を行いたいと思った場合、事業から利益を得るために係る特許費用が高いようであれば、特許取得の意義が薄れてくる。

それでは、特許権を取得するのに、どのくらいの費用がかかるか?

特許権の取得には、特許出願から特許権を行使できる特許登録までに特許庁に必ず支払わなければならない費用があり、以下のように定められている。

特許出願     14,000円

出願審査請求   118,00円+(請求項の数×4,000円)

特許料      年間2,100円+(請求項の数×200円)

請求項の数は特許出願内容によって変わるが、仮に3個だとし、登録時の特許料はまとめて3年分を支払う必要がある。

この場合では、費用合計は152,100円と計算される。

(注)出願審査請求料が改正(引上げ)されました。

令和3年特許法等改正に伴う料金改定のお知らせ(令和4年4月1日施行)

https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/kaisei/2022_ryokinkaitei.html

産業財産権関係料金一覧[更新日 2022年4月6日]

https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/hyou.html

登録された後、権利を維持していくためには、毎年、特許料(年金)を支払う必要がある。

その費用は以下のようで、10年以降は急激に高くなる。

4年~6年;毎年6,400円+(請求項の数×500円)

7年~9年;毎年19,300円+(請求項の数×1,500円)

10年以降;毎年55,400円+(請求項の数×4,300円)

出願費用、審査請求費用や特許料は、すべて特許庁の収入になる。

なお、大学や中小企業・個人事業者については、費用の減免措置が設けられている。

特許登録後10年に差しかかる時期は、特許出願して13年程度は経過しており、技術開発開始時点からは15年程度経過しているような時期であり、特許発明技術が陳腐化している可能性がある。

仮に特許料を支払って9年間権利維持した場合に係る総費用(出願、審査請求も含めて)は、247,100円になる。一方、10年目は、1年で95,100円かかるので、特許料を継続して支払って、権利維持する必要があるのかの大きな判断ポイントになると思われる。

判断する際に、特許発明の実施有無や実施可能性に加えて、「パテントスコアー」を活用して他社牽制力の観点を含めて評価する考え方がある。

独立行政法人や国立大学法人では、取得した特許権から得られた収入よりも、出願や維持のための費用が上回っており、会計検査院から特許管理の見直しを求められたとの報道がある。

企業においては、防衛目的で出願される特許も多く、特許取得に係る費用と、特許権によってもたらされるライセンス収入や事業収益との単純比較だけで、特許を管理することは難しいと思われる。

上記費用は、自らすべての手続きを行った場合の費用であり、特許出願数の多い大手企業では自社の特許専門部署が担当する。

一方、多くの企業では、特許の専門家である弁理士の力を借りて権利化するため、上記の特許庁費用に加えて、以下の弁理士費用がかかってくる。

出願(書類作成等)               20~40万円

審査過程での特許庁とのやり取り(中間手続費用) 1回5~15万円

特許査定時の成功報酬              10万円

手数料                     1回1万円程度

日本における年間の特許出願数約32万件、審査請求件数約24万件、登録件数約19万件(平成27年)なので、特許庁は多額の収入を得ることになる。

特許庁の毎年の収支は公開されており、平成27年度決算によれば、収入の大部分は特許料等の収入で約1122億円、一方歳出は1282億円、ほとんど事務取扱費である。これだけ見ると、特許庁は赤字のように思われるかもしれないが、実際には2000億円を超える巨額の剰余金があり、これが毎年繰り越されている。

決算には、剰余金について、「審査・審判に順番待ち期間等があり、出願人から納付された手数料が支出(審査)されずに残っていることや、今後10年程度を見越して、特許審査の効率化・迅速化等のための情報システムに係る設備投資の費用などに充当すべく確保しているものです。なお、平成28年4月から、特許料等の引き下げを行っております。」と説明されているが、実際に引き下げが行われた。

(注)特許料金の見直しの動きがあります(2021年8月13日現在)

“特許料が2022年度にも引き上げに。その理由とは?” https://newswitch.jp/p/26849

”産業財産権関係料金の見直しに対する意見募集について” https://www.jpo.go.jp/news/public/iken/210716_ryokin_minaoshi.html

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産業財産権関係料金一覧(2016年4月1日時点) https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/hyou.htm

独法や国立大の8割、特許収支「赤字」 維持費かさむ

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG10H6A_Q5A211C1CR8000/

弁理士費用(報酬)アンケート調査 結果公表 http://www.jpaa.or.jp/howto-request/questionnaire/

弁理士の費用(報酬)について  http://www.jpaa.or.jp/old/?cat=310

弁理士報酬アンケート結果簡易版(平成21年10月実施)

http://www.jpaa.or.jp/old/consultation/commission/pdf/2010/question-result.pdf

特許出願費用の相場  http://www.xn--xsq70db13c72twsp0ea.com/wp/?p=1000

特許権を取得するまでの手続の流れ(概略)と費用の概算 http://www.kpat-jp.com/patent/flow.pdf

12.主要国・機関における特許出願政府費用等一覧表

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2017/toukei/0612.pdf

決算に関する情報 平成27年度

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9494089/www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/hiroba/tokukai_zyouhoukaizi.htm

平成27年特許法等改正に伴う料金改定(平成28年4月1日施行)のお知らせ

https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/fy27_ryoukinkaitei.htm

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