(19)パテントトロールに対抗する;社外資源を利用した無効化調査

パテント・トロールに対抗する最も有効な方法は、問題の特許を無効化することである。無効化のためには、特許が無効であることを示す証拠(無効資料)を見つけることが必要になる。米国では、有効な無効資料を見つけるために、報奨金を支払って、公開で無効資料を募集する仕組みも活用されている。

パテント・トロール(PAE)は、権利行使をちらつかせながら、法外なライセンス料や高額な和解金を得ることを目的としてビジネスとする者で、米国では以前から大きな問題となっていた。

米国政府や裁判所によって、特許権の濫用として様々な対策が打たれたが、その中で、企業が自らの力でパテント・トロールに対抗するために利用できるのは、「特許無効化手続の強化」である。

特許無効の証拠となる提出資料の要求が低くなった上に、原則、開始から1年以内に特許の有効性に関する最終決定を出さなければならないと法的に規定されているため、短期間で決着をつけることができるようになった。

しかし、パテント・トロールの保有する特許が、無効な特許であることを主張するためには、無効であることを示す証拠(無効資料)を提出する必要があることに変わりはない。

米国では、企業側も無効化のためのビジネス・アイデアを持っている。

ある企業においては、総額5万ドルの資金を用意して、パテント・トロールの保有する70ほどの特許の無効化を狙った「Project Jengo」という懸賞プロジェクトを立ち上げて、先行技術であることを示す証拠を収集して、勝訴して、和解金の支払いを回避した。

また、「Unpatent」というクラウドファンディングサービスやソフトウエア&インターネット分野に特化した「Patent Busting Project」という、「無効化」をビジネスとする企業も存在する。

「邪魔な特許」を「無効資料」によって「潰す」ために、懸賞金を活用するアイデアは、2008年に設立された「Article One Partners」という企業で既に行われていた。企業から依頼に応じて、クラウド上で無効資料を募り、最も良い文献を提供した者に懸賞金を出している。

同社のホームページの「Active Patent Research Studies」(https://app.articleonepartners.com/browse/?t=open)には、公開募集している案件リストが掲載されている。

例えば、2017年12月31日期限の「動物飼料添加物」(“Amimal Food Additives”)の場合は、1998年1月1日から現在に至るまでに公開された非抗生物質性の動物飼料添加物に関する特許文献に関する募集である。報奨金は4500USドル(約50万円)。

2017年12月6日現在、2017年の実績として、公開募集と非公開募集の案件とを合わせて957件の完了案件があり、支払った総報奨金は約70万USドル(約8000万円)と記載されている。

日本においても、特許権の無効化調査の重要性は同じである。

松谷化学工業のホームページの知財グループ紹介では、特許調査担当者による、特許調査の重要性と、調査として特許出願時の「先行技術調査」、商品開発時の「被侵害調査」とともに、「無効資料調査」があり、「無効化調査」の苦労話が紹介されている。

調査専門会社は「無効資料調査」も請け負うが、中には、無効資料調査を得意としているところも出現してきている。

トランスパテントサーチという会社の案内には、上記“Article One Partners”が取り上げられており、「弊所開業後に挑戦し、6回の優勝、16回のMVR(Most Valuable Researchers:準優勝相当)を受賞しております。」と書かれている(http://tpsearch.com/)。

また、角田特許事務所のホームページには、「弊所は特許調査など知財に関する調査、鑑定、特許庁への情報提供など知財情報調査・鑑定に特化した特許事務所です。」(http://www.tsunoda-patent.com/concept.html)と書かれており、ファイン総合特許事務所の必須特許評価サポートには、「弊所の強みは、低コストな必須性簡易評価・寄書調査による必須特許の確実な無効化」(http://www.fine-ip.com/category/1613233.html)と書かれている。

特許の無効化の方法は、出願前調査のような一般的な特許調査と比較して、無効資料の発見はかなり難易度が高い。それは、特許業務の実務経験と特許技術についての基礎知識が要求される点では同じであるが、要求されるレベルが高い。

日本においても、公開募集し、有効な資料を提供した調査者に懸賞金を支給する形で、社外資源を活用する無効資料を見つける方法は有効であると思われる。

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(引用文献)

米国パテントトロール訴訟の勃興と退潮,米国あげての総動員対策,及び今後の日本の課題

https://core.ac.uk/download/pdf/71797808.pdf

米国特許権保護の現状 ~パテント・トロール対策およびその影響~

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/newtokkyo_shiryou017/02.pdf

米国特許無効の申請:PTAB における当事者系レビュー (IPR)

http://www.towa-nagisa.com/japanese/institute/journal/2017/002/34-45.pdf

パテントトロール(特許の怪物)の特許訴訟にどう立ち向かうか?

http://mastergekko.com/post-888/

パテント・トロールに示談金を払わずに完勝する方法、Cloudflareの先行技術調査戦術に学ぶ

http://jp.techcrunch.com/2017/05/12/20170511trolling-the-patent-trolls/

パテントトロールの所有する「悪しき特許」に対抗するクラウドファンディングサービス

https://yro.srad.jp/story/16/09/21/0848206/

How To Kill Patent Trolls

http://www.slate.com/articles/technology/technology/2012/02/article_one_partners_how_a_bunch_of_amateur_sleuths_are_stamping_out_patent_trolls_.html

On a quest against patent trolls  https://unpatent.co/

Patent Busting Project  https://www.eff.org/patent-busting

松谷化学工業 株式会社  https://job.rikunabi.com/2018/company/r652220040/senior/K113/

トランスパテントサーチ  http://tpsearch.com/

角田特許事務所  http://www.tsunoda-patent.com/concept.html

ファイン総合特許事務所・必須特許評価サポート http://www.fine-ip.com/category/1613233.html

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