特許第7364497号は、緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含有する、抗がん作用等に優れた組成物に関する。実施可能要件、サポート要件、明確性要件、新規性・進歩性の違反の理由で異議申立てされたが、含有成分の限定などの訂正によって、権利維持された。
トヨタ自動車と九州大学との共有特許第7364497号“緑茶抽出物含有組成物、機能性食品”を取り上げる。
特許第7364497号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下である(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7364497/15/ja)。
【請求項1】緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含む組成物であって、
上記緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン(B)との比(A/B)が0.4≦A/B≦0.8であるか、
エピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(A/C)が0.25≦C/A≦0.34であることを特徴とする
緑茶抽出物含有組成物。
【請求項2】省略
本特許公報の詳細な説明には、“ 緑茶に含まれる主要なカテキンの一種であるEGCG (エピガロカテキンガレート;Epigallocatechin-O-gallate) ”について、該化合物は“抗がん作用を有することが報告されており”、“EGCGの白血病細胞や多発性骨髄腫細胞に対する致死作用は限定的であり ”、“EGCGを抗がん剤として利用する上でその作用増強が強く望まれている”と記載されており、本発明は、“カテキン等の緑茶抽出物による抗がん作用等の各種作用を最も効果的に増強できる組成物及び機能性食品を提供することを目的とする”と記載されている。
そして、上記目的を達成するために、“本発明者らが鋭意検討した結果、カテキン等の緑茶抽出物と、柑橘類抽出物又はフラバノン配糖体とを所定の比率で混合することでカテキン等の緑茶抽出物の有する各種効果を極めて著しく向上できることを見出し、本発明を完成するに至った”と記載されている。
本特許発明は、“緑茶抽出物又はカテキンの抗がん作用、抗筋萎縮作用、抗肥満作用、抗炎症作用、コレステロール低下作用、血栓又は脳梗塞予防作用及び免疫増強作用からなる群から選ばれる少なくとも1つの作用の増強剤である”と記載されている。
本特許の公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下である(特開2021―136906、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-136906/11/ja)。
【請求項1】緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含む組成物であって、
上記緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるフラバノン配糖体(B)との比(B/A)が0.2<B/A<1.6であるか、
エピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(C/A)が0.2<C/A<0.5であることを特徴とする緑茶抽出物含有組成物。
【請求項2】~【請求項8】省略
請求項1については、“フラバノン配糖体“を”糖転移ヘスペリジン“に限定し、エピガロカテキンガレートとの含有比の数値範囲が限定すること、並びに、エピガロカテキンガレート(A)と柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との含有比の数値範囲を限定することによって、特許査定を受けている。
特許公報の発行日(2023年10月18日)の半年後(2024年4月18日)、一個人名で異議申立された(異議2024-700367、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2020-036833/10/ja)。
審理の結論は、以下の通りであった。
“特許第7364497号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。
特許第7364497号の請求項1及び2に係る特許を維持する。“
異議申立人が申立てた異議申立理由は、以下の5つであった。
1.“申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであ“る。
甲第1号証:特開2017-12069号公報“ヘスペリジン含有茶飲料組成物の製造方法”
2.“申立理由2(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであ“る。
甲第4号証:国際公開第2015/199169号”カテキンの機能性増強法“
3.“申立理由3(実施可能要件)”
“本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1及び2における「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。”
4.“申立理由4(サポート要件)
本件特許発明1及び2における「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」を使用して、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0007】に記載された課題を解決できることの記載および示唆はない。また、当業者が出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1及び2における「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」を使用して本件特許発明の課題を解決できるとは認識できない。“
5.“申立理由5(明確性要件)
(1)本件特許の発明の詳細な説明及び本件特許の出願前の技術常識を踏まえても、本件特許発明1及び2における「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」の技術的意味を理解することができず、その権利範囲を確定することができないため第三者に不測の不利益を及ぼす。
(2)本件特許発明1及び2におけるエピガロカテキンガレーと(A)とエリオシトリン(C)との比の範囲を確定することができず、第三者に不測の不利益を及ぼす。“
以下、本特許請求項1に係る発明(本件特許発明1)に絞って、審理結果を紹介する。
異議申立日の約2か月後(2024年6月13日付け)、取消理由が通知された。
取消理由は、異議申立書で申立てられた以下の5つの理由であった。
1.取消理由1(実施可能要件)
審判官は、以下の理由から、“本件特許発明1及び2に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足するとはいえない”と判断した。
・“本件特許発明1及び2は、「緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート」と「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」の比を特定するものであるところ”、第9号証(省略)によると、“本件特許の出願前に、「柑橘類」に「ヘスペリジン」が含まれることは知られていたといえるが、「柑橘類」に「糖転移ヘスペリジン」が含まれていたことは知られていない。”
・発明の詳細な説明には、“「糖転移ヘスペリジン」として、「糖転移ヘスペリジン:株式会社林原」及び「糖転移ヘスペリジン(αヘスペリジン PA-T、グリコ栄養食品株式会社)」を使用することが記載されているが、これらは、「ヘスペリジン」を酵素処理することにより得られた化合物であり(甲7ないし10参照。)、「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」ではない。”
・そうすると、“「柑橘類抽出物」には「糖転移ヘスペリジン」は含まれず、「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」というものはないことを当業者は理解する。”
・“仮に、「柑橘類」にごく微量の「糖転移ヘスペリジン」が含まれるとしても、発明の詳細な説明の【0031】及び【0032】に記載された「柑橘類」から、同【0034】及び【0035】に記載された抽出溶剤や抽出方法により、十分な量の「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」を得られることが、発明の詳細な説明には開示されているとはいえないし、「柑橘類」から十分な量の「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」を得る方法が本件特許の出願時における当業者の技術常識ということもできない。”
・“したがって、発明の詳細な説明には、本件特許の出願時における当業者の技術常識を考慮しても、「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」をどのようにして得るのかについて記載されているとはいえないから、発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1及び2を生産し、使用をすることができる程度の記載があるはいえない。”
2.取消理由2(サポート要件)
審判官は、以下の理由から、“本件特許発明1及び2に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものであるとはいえない”と判断した。
・発明の詳細な説明には、取消理由1(実施可能要件)で記載したとおり、“本件特許発明1及び2の発明特定事項である「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」に関する記載はないし、「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」により発明の課題を解決できることを確認する実施例の記載もない。”
・“そうすると、本件特許発明1及び2は発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載により、本件特許発明1及び2が発明の課題を解決できると当業者が認識できるものであるともいえない。”
3. 取消理由3(明確性要件)
審判官は、以下の理由から、“本件特許発明1及び2に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる”と判断した。
・発明の詳細な説明には、取消理由1(実施可能要件)で記載したとおり、“「糖転移ヘスペリジン」は「柑橘類抽出物」に含まれるものではないから、本件特許発明1及び2の発明特定事項である「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」は、その技術的意味を理解することができない。”
・“本件特許発明1及び2の発明特定事項である「エピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(A/C)が0.25≦C/A≦0.34である」は、「A」と「C」のどちらを分母とし、どちらを分子とするのかが一致しておらず、「0.25」以上「0.34」以下という範囲で特定されるのが、「A/C」及び「C/A」のどちらなのかを確定することができない(発明の詳細な説明の【0061】の【表1】及び【図2】からは、「0.25≦C/A≦0.34」を「0.25≦A/C≦0.34」と訂正するべきと考えられる。)。
審判官は、以下の取消理由4及び5の判断を行う際の前提条件として、“本件特許発明1及び2における「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」を「柑橘類抽出物に含まれるヘスペリジン由来の糖転移ヘスペリジン」のことを意味するものとして、判断を行う”こととした。
4.取消理由4(甲1に基づく新規性・進歩性)
審判官は、甲第1号証に記載された発明として、以下の“甲1実施例22発明“と” 甲1実施例20発明“の2つの発明を認めた。
“<甲1実施例22発明>「実施例22のヘスペリジンの含有量が750ppm、ガレート型カテキンの含有量が572ppmの緑茶飲料。」“
“<甲1実施例20発明>「実施例20のヘスペリジンの含有量が750ppm、ガレート型カテキンの含有量が464ppmの緑茶飲料。」”
審判官は、本件特許発明1と甲1実施例22発明とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。
“<一致点>「緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含む組成物。」”
“<相違点1-1a> 本件特許発明1においては、「上記緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン(B)との比(A/B)が0.4≦A/B≦0.8であるか、エピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(A/C)が0.25≦C/A≦0.34であると特定されているのに対し、甲1実施例22発明においては、そのようには特定されていない点。”
上記<相違点1-1a>について、審判官は以下のように判断した。
・甲1実施例22発明における「ヘスペリジン」は、“取消理由4及び5の判断を行う際の前提条件”で示した“「柑橘類抽出物に含まれるヘスペリジン由来の糖転移ヘスペリジン」といえ、本件特許発明1における「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」に相当“し、”甲1実施例22発明における「ガレート型カテキン」は、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレートである。“
・甲2及び3(省略)を考慮すると、“甲1実施例22発明における「エピガロカテキンガレート」はガレート型カテキンの約81.2%を占める(81.2=(53.9/(53.9+12.5)×100)。
そうすると、甲1実施例22発明における「エピガロカテキンガレート」の量は464.5ppmと計算され(464.5=572×81.2/100)、エピガロカテキンガレート/糖転移ヘスペリジンの重量比は0.619と計算され(0.619=464.5/750)、「0.4≦A/B≦0.8」の条件を満た“し、”相違点1-1aは実質的な相違点とはいえない。“
・“したがって、本件特許発明1は甲1実施例22発明である。また、本件特許発明1は甲1実施例22発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。”
甲1実施例20発明についても、本件特許発明1との一致点及び相違点は、上記した甲1実施例22発明の場合と同様であり、審判官は、同様な理由で、“本件特許発明1は甲1実施例20発明である。また、本件特許発明1は甲1実施例20発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである”と判断した。
5.“取消理由5(甲4に基づく進歩性)”
審判官は、甲第4号証には、以下の「甲4組成物発明」が記載されていると認めた。
“<甲4組成物発明>「緑茶抽出物又はカテキンと、柑橘類抽出物又はフラバノン若しくはその配糖体とを含む、組成物であって、
緑茶抽出物又はカテキンが、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート及びメチル化カテキンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
柑橘類抽出物又はフラバノン若しくはその配糖体が、エリオジクチオール、ナリンゲニン及びヘスペレチン、並びにこれらの配糖体からなる群から選ばれる少なくとも1種である組成物。」”
審判官は、本件特許発明1と甲4組成物発明とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。
“<一致点>「緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含む組成物。」”
“<相違点4-1>本件特許発明1においては「上記緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン(B)との比(A/B)が0.4≦A/B≦0.8であるか、エピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(A/C)が0.25≦C/A≦0.34である」と特定されているのに対し、甲4組成物発明においてはそのようには特定されていない。”
審判官は、相違点4-1について、以下のように判断した。
・“甲4の[0064]に、緑茶に含まれる主要なカテキンの一種である「EGCG(エピガロカテキンガレート)」5mMに柑橘類抽出物中に含まれるフラバノンの配糖体である「ヘスペリジン」を5mM添加したものは、「EGCG(エピガロカテキンガレート)」の抗がん作用を顕著に高めることが示されていることから、甲4組成物発明において、緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレートと柑橘類抽出物に含まれるヘスペリジンを等モルずつ含ませることは当業者が容易に想到し得たことである。”
・甲5、6及び10(省略)によると、“「糖転移ヘスペリジン」は「ヘスペリジン」よりも水溶性が高く、生体吸収性が高いものである。
そうすると、甲4の[0064]並びに甲5、6及び10に記載された事項を考慮して、甲4組成物発明において、「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」を「EGCG(エピガロカテキンガレート)」と等モル含有させることは当業者が容易に想到し得たことである。
・“「糖転移ヘスペリジン」の分子量は772.71であり、「EGCG(エピガロカテキンガレート)」の分子量は458.37であるから、甲4組成物発明において、「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」を「EGCG(エピガロカテキンガレート)」と等モル含有させた場合に、EGCG(エピガロカテキンガレート)/糖転移ヘスペリジンの質量比は0.593と計算され(0.593=458.37/772.71)、「0.4≦A/B≦0.8」の条件を満たす。“
・“したがって、甲4組成物発明において、甲4の[0064]並びに甲5、6及び10に記載された事項を考慮して、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本件特許発明1の奏する「抗がん作用等に優れたものとなる」(発明の詳細な説明の【0017】)という効果は、甲4組成物発明も奏する効果であるから、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるとはいえない。“
・“したがって、本件特許発明1は甲4組成物発明並びに甲4ないし6及び10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。”
取消理由に対して意見書及び訂正請求書が提出された。
訂正は認められ、特許請求の範囲は、以下のように訂正された。
【請求項1】緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含む組成物であって、
上記緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(A/C)が0.25≦A/C≦0.34であることを特徴とする
緑茶抽出物含有組成物。
【請求項2】 省略
請求項1については、“エピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン(B)との比(A/B)が0.4≦A/B≦0.8”の要件が削除された。
訂正特許請求の範囲について、審判官は拒絶理由通知に記載された各取消理由について、以下のように判断した。
1.取消理由1(実施可能要件)について
・“取消理由1は、本件訂正前の本件特許の請求項1及び2における「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」という記載に起因するものであるところ、本件訂正により該記載を含む「エピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン(B)との比(A/B)が0.4≦A/B≦0.8であるか、」という記載は削除され、「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」という記載に起因する実施可能要件違反の理由はなくなった。
・“発明の詳細な説明には本件特許発明1及び2の各発明特定事項について具体的に記載されており、実施例についても具体的に記載されている。
・“したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1及び2を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1及び2に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。“
2.取消理由2(サポート要件)について
・訂正によって、“「エピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン(B)との比(A/B)が0.4≦A/B≦0.8であるか、」という記載は削除され、「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン(B)」という記載に起因するサポート要件違反の理由はなくなった。
・発明の詳細な説明には、“「緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)」と「柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)」との「比(A/C)」が「0.25≦A/C≦0.34」の条件を満たす実施例においてcGMP濃度が有意に上昇しており、抗がん作用等の各種作用を大幅に向上できることを確認する記載がある。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は訂正請求項に記載された緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含む組成物は、“発明の課題を解決できると認識できる。”
・”したがって、本件特許発明1及び2は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1及び2に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。“
3.取消理由3(明確性要件)について
・訂正によって、“「柑橘類抽出物に含まれる糖転移ヘスペリジン」という記載及び「エピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(A/C)が0.25≦C/A≦0.34である」という記載に起因する明確性要件違反の理由はなくなった。”
・“本件特許の請求項1及び2の記載は、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
・“したがって、本件特許発明1及び2に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。”
4.取消理由4(甲1に基づく新規性・進歩性)について
・本件特許発明1と甲1実施例22発明を対比すると、以下の一致点及び相違点が認められる。
<一致点>「緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含む緑茶抽出物含有組成物。」
<相違点1-1a> 本件特許発明1においては、「上記緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(A/C)が0.25≦A/C≦0.34である」と特定されているのに対し、甲1実施例22発明においては、そのようには特定されていない点。
・本件特許発明1と甲1実施例22発明の間には、相違点1-1aがあるから、本件特許発明1は甲1実施例22発明であるとはいえない。
また、甲1には、甲1実施例22発明において、相違点1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1実施例22発明において、相違点1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
・本件特許発明1の奏する「抗がん作用等に優れたものとなる。」という効果は、甲1実施例22発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
・よって、本件特許発明1は甲1実施例22発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
・本件特許発明1と甲1実施例20発明との対比における一致点及び相違点は同様であり、同様に理由で、本件特許発明1は甲1実施例20発明であるとはいえないし、“本件特許発明1は甲1実施例20発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。”
5.取消理由5(甲4に基づく進歩性)について
・本件特許発明1と甲4組成物発明を対比すると、以下の一致点及び相違点が認められる。
<一致点>“「緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含む緑茶抽出物含有組成物。」”
<相違点4-1>“本件特許発明1においては「上記緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(A/C)が0.25≦A/C≦0.34である」と特定されているのに対し、甲4組成物発明においてはそのようには特定されていない点。
・甲4には、甲4組成物発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲4組成物発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
・“本件特許発明1の奏する「抗がん作用等に優れたものとなる。」という効果は、甲4組成物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。”
・“よって、本件特許発明1は甲4組成物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。”