Wikipediaに「特許戦争」(patent war)という項目がある。
特許を巡る企業間の争いごとは、「戦争」と呼ばれるように、企業の経営を左右する事項になりつつある。
このことは、「下町ロケット」を引き合いに出すまでもなく、一般の人々の知るところとなってきている。そこには、特許を題材とした企業間抗争が描かれており、その点で興味深いが、「特許権」自体についての説明は必ずしも十分とは思われなかった。
一般の人々対象であれば、内容を理解するに必要な説明を与えれば十分なのかもしれない。しかし、ビジネスの読み物として書かれた文書には、そもそも、「特許」は「技術」そのものであること、それなのに「特許権」となると、なぜビジネスの「武器」になるのか、そして、「武器」をどういう使うのかということについて、その背景を含めた全体像についてあまり語られていない印象を受ける。
私は、ここ10年ほど、企業にて特許業務に携わってきた。
私が関わってきた食品特許の分野でも、この数年で知財環境は一変し、「特許権」を「武器」にしていこうという動きが強くなっている。特許庁の審査に通りやすいような形に工夫された特許出願が多く見受けられるようになってきている。結果として、時として、瑕疵のある特許権が付与され、そのことが「特許権」抗争に一層の拍車をかけているように感じられる。
私は、自分の経験から、特許権は、そもそも潜在的に不安定さが内在する権利であり、瑕疵のある特許権も、それなりの数、存在しており、「絶対的な」武器ではなく、切れ味にぶい武器と考えておいた方がよいと思っている。
本ブログのタイトル、「邪魔な特許の潰し方、教えます。」は、瑕疵のある特許出願に特許権が付与されないように阻止する方法、付与された時の対処法を、私なりの考えをまとめたものという意味である。特許権に対する理解と、審査過程での対処を適切に行うことで、瑕疵ある特許が少しでも減り、企業間で無益な労力を使わなくてもよいことを願ってのことである。そのための要点は、適切な出願前調査と無効資料調査にあると考えている。
第一部は、特許権とは不安定さが内在する権利であることを示すため、特許権とは何か、特許権を得たら何ができるのか、そして特許権に不安定さが内在する背景、そして特許権を巡る攻防を具体例で述べてみたい。特許とはどういうものかを知りたい人のための入門だが、第二部の特許調査に係る人、サーチャー、に知っておいて欲しい内容をまとめたものでもある。
第二部は、特許調査をする人(サーチャー)に対するものである。特許の審査過程での特許調査、特に外部発注、は、マニュアルに沿った機械的なものになっている印象があり、それが瑕疵のある特許権を生み出す原因となっているのではないかと懸念している。適切な特許調査は、第一部で述べた特許権の理解の上に可能なものであり、そのことを具体的に考えていきたい。
余力があれば、第三部として、私の行ってきた特許翻訳の方法について、紹介したいと考えている。
「1万時間の法則」という言葉がある。その仕事に精通し、専門性を身につけるのに必要な経験時間である。特許に関する仕事に、1日7時間、年240日携わっていると、年間で1680時間。そうすると、6年間で1万時間を超え、一応のレベルの達することになる。この基準に当てはめれば、経験時間的には私も一応のレベルの達したことになる。そう勝手に考えて、このブログをスタートすることにする。