特許を巡る争い<110>コカ・コーラ・インスタント茶飲料特許

ザ  コカ・コーラ  カンパニーの特許第7354178号は、携帯に適し、水又はお湯と混合して簡便に無糖の飲料を調製できる茶などの飲料固化物に関する。進歩性欠如の理由で異議申立されたが、申立人の主張は認められず、そのまま権利維持された。

ザ  コカ・コーラ  カンパニーの特許第7354178号“凍結乾燥された飲料固化物”を取り上げる。

特許第7354178号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下であるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7354178/15/ja)。

【請求項1】

水又はお湯と混合して飲料を調製するための凍結乾燥された飲料固化物であって、

前記飲料固化物がデキストリンを含み、

前記デキストリンのデキストロース当量が6~30であり、

前記飲料固化物中の糖類の含有量が8.5質量%以下であり、

前記飲料固化物の体積が4~50cm3であり、

前記飲料固化物の密度が0.13g/cm3より大きく0.40g/cm3より小さい、

前記飲料固化物(但し、飲料がコーヒーである飲料固化物を除く。)。

【請求項2】~【請求項9】 省略

本特許明細書には、本特許発明は、“凍結乾燥された飲料固化物に関する。より具体的には、本発明は、水又はお湯と混合して飲料を調製するための凍結乾燥された飲料固化物に関する”と記載されている。

詳しくは、“従来技術においては、インスタントの乾燥飲料を提供するためには、糖類を使用する必要があったため、無糖の飲料を提供することができなかった。

そこで、本発明は、携帯に適し、水又はお湯と混合して簡便に無糖の飲料を調製できる、新規な飲料固化物を提供することを目的とする“と記載されている。

そして、“本発明者らは、例えばマイボトルに充填する飲料を簡便に調製することを目的として鋭意検討した結果、飲料中の糖類の濃度を低減しつつ飲料にデキストリンを含有させて凍結乾燥することにより、携帯に適し、水又はお湯と混合して簡便に無糖の飲料を調製できる、新規な飲料固化物を提供できることを見出だし、本発明を完成させた”と記載されている。

本特許発明における“デキストリン“は、”デンプンを加水分解して麦芽糖に至るまでの種々の分解生成物をいうものとする。本発明において、デキストリンは、商業的に入手可能なものを使用することができる。と記載されており、

デキストリンのデキストロース当量(一般に「DE値」ともいう。)は例えば、2~30であり、好ましくは、6~21であり、より好ましくは、10~18である。”と記載されている。

デキストロース当量”について、“上記の数値範囲内で低い場合は、低分子化が進んでおらず、デキストリンの分子量は大きいことを意味する。そのため、低デキストロース当量のデキストリンの方が、デキストリンを含有する飲料抽出液の凝固点降下が起こりにくく、これを凍結乾燥する場合において、得られる飲料固化物の発泡や膨張を起こしにくい。

すなわち、成型性や保形性を損なうことがない。加えて、低デキストロース当量のデキストリンは、甘味を呈することがないため、無糖飲料を調製するうえで好ましい”と記載されている。

本特許は、2021年4月8日に出願され、公開日(2022年10月21日)前の2022年4月7日に早期審査請求され、公開後の2023年8月22日に特許査定を受けている。

公開公報に記載されている特許請求の範囲は、以下である(特開2022-161382、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2022-161382/11/ja)。

【請求項1】

水又はお湯と混合して飲料を調製するための凍結乾燥された飲料固化物であって、

前記飲料固化物がデキストリンを含み、

前記飲料固化物中の糖類の含有量が8.5質量%以下である、前記飲料固化物。

【請求項2】~【請求項11】 省略

請求項1については、デキストリンのデキストロース当量及び飲料固化物の体積・密度の数値限定、並びに飲料としてコーヒーを除くクレームに補正されて、特許査定を受けている。

特許公報の発行日(2023年10月2日)の約4月後(2024年2月13日)に一個人名で異議申立された(異議2024-700120、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-066162/10/ja)。

審理の結論は、以下のようであった。

“特許第7354178号の請求項1~9に係る特許を維持する。”

異議申立人の申立てた異議申立理由は、以下であった。

本件発明1~9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された事項に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。

甲1:特開昭59-21346号公報 【発明の名称】即席紅茶の製造方法

以下、本特許請求項1に係る発明(本件発明1)に絞って、審理結果を紹介する。

審判官は、甲1には、以下の発明(甲1発明)が記載されていると認めた。

“「スリランカ産紅茶500gとケニア産紅茶500gを混合し、32℃の水5kgを加え、その温度に保ちながら12時間浸漬する工程

遠心脱水して茶葉と分別し、4.5kgの抽出液を得る工程

抽出液がBx12になるまで100トル、かつ50℃で減圧濃縮し、濃縮液2.25kgを得る工程

この濃縮液に日本資糧工業(株)のデキストリンであるDE8規格のN.S.D.238(商品名)を0.61kg添加し、Bx30の溶液を得る工程

該溶液を-40℃で予備凍結した後、凍結乾燥機に搬入し、0.6~0.3トルで凍結乾燥を行ない、0.3トルを維持した状態で仕上げる工程、

及び凍結乾燥後、乳鉢で粗砕し3.5~30メツシユ(日本工業規格の篩)の範囲内に篩い分ける工程を有する製造方法によって製造された、

見掛比重が0.21g/c.c.であり、スプーン一杯(2.3g)で紅茶茶椀一杯分(170c.c.)の紅茶飲料を調製することができる即席紅茶。」“

審判官は、本件発明1と甲1発明とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

一致点:“「水又はお湯と混合して飲料を調製するための凍結乾燥された飲料の固体であって、

前記飲料の固体がデキストリンを含み、

前記デキストリンのデキストロース当量が6~30である、

前記飲料の固体(但し、飲料がコーヒーである飲料固化物を除く。)。」“

相違点1:省略

相違点2:“本件発明1は「前記飲料固化物の体積が4~50cm3であり、」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点”

相違点3:“本件発明1は「前記飲料固化物の密度が0.13g/cm3より大きく0.40g/cm3より小さい、」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点”

審判官は、相違点2及び3について、以下のように判断した。

甲1には、”従来の即席紅茶には「スプーン一杯分を用いて紅茶飲料に復元すると、紅茶茶椀一杯分に相当した香味にはならず、スプーン半杯が凡そ紅茶茶椀一杯分に相当した香味になる。そのため、一般家庭においては正確に計量し難い」という課題があったことが記載され“、

さらに、“甲1に記載された発明が「上記の如き諸欠陥を克服すべく鋭意研究の結果、・・・スプーン一杯分を用いて湯または水で復元したときに香味が丁度紅茶茶椀一杯分に相当する」ものとして完成されたことが記載されている。”

・“そうすると、「スプーン一杯(2.3g)で紅茶茶椀一杯分(170c.c.)の紅茶飲料を調製することができる」ように「乳鉢で粗砕し3.5~30メツシユ(日本工業規格の篩)の範囲内に篩い分け」がされたものである甲1発明において、即席紅茶をスプーンでの計量を前提としない「固化物」とする動機は生じないし、

さらに紅茶茶碗一杯分という分量を前提としない「体積が4~50cm3」及び「密度が0.13g/cm3より大きく0.40g/cm3より小さい」固化物とする動機も生じない。

・“また、他の証拠にも、甲1発明において、「乳鉢で粗砕し3.5~30メツシユ(日本工業規格の篩)の範囲内に篩い分け」された即席紅茶を「固化物」にした上で、「体積が4~50cm3」及び「密度が0.13g/cm3より大きく0.40g/cm3より小さい」ものとする動機付けとなる記載はない。

・“したがって、甲1発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2及び3に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

・“そして、本件発明1の奏する効果、“特に外出先でマイボトルにおいて飲料を調製するのに適している。」”という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

異議申立人は、相違点2について、以下のように主張している。

“「甲1には、即席紅茶を製造するにあたり、濃縮液をトレーに流し入れて1~5cm厚さにして凍結乾燥品を製造することが記載されている。

甲1には、この凍結乾燥品の体積に関する具体的な数値は記載されていないが”、“即席紅茶を最終的に粗砕せず、体積を遁宜範囲にすることは当業者が容易に想到できることである。よって、構成要件1E「前記飲料固化物の体積が4~50cm3であり」は、甲1に記載事項から当業者が容易に想到できるものである。」

また、相違点3について、以下のように主張している。

“「甲1には、粗砕された即席紅茶の見掛比重が記載されており、即席紅茶にデキストリンを添加することにより見掛比重を調製できることから、即席紅茶において比重(密度)を適宜調整することは当業者が当然に行うことであり、密度0.13g/cm3より大きく0.40g/cm3より小さくすることは当業者が容易に想到できることである。

また、“甲2には、フリーズドライの抹茶が密度約0.3g/cm3であることが示されていることからも、飲料固化物の密度を上記範囲にすることは当業者が通常行うことである。

甲2:京都新聞webページ,キューブの「コロコロ抹茶」手軽に飲めて、そのまま食べられます,[online],2021年7月12日,株式会社京都新聞社,[2024年3月8日印刷],インターネット<URL:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/595472>

よって、“構成要件1F「前記飲料固化物の密度が0.13g/cm3より大きく0.40g/cm3より小さい」は、甲1に記載事項から当業者が容易に想到できるものである。」

異議申立人の上記主張に対して、審判官は、以上の理由などから、“申立人の主張は採用できない”と判断した。

甲1発明は「スプーン一杯(2.3g)で紅茶茶椀一杯分(170c.c.)の紅茶飲料を調製することができる」ように、凍結乾燥品を「乳鉢で粗砕し3.5~30メツシユ(日本工業規格の篩)の範囲内に篩い分け」したものであるから、「スプーン一杯(2.3g)」という計量及び「紅茶茶椀一杯分(170c.c.)」という分量の前提を離れて、「トレーに5cm厚に流し込み凍結乾燥」した凍結乾燥品を粗砕しないものに変更することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

また、凍結乾燥品を粗砕しないものに変更した上で、その粗砕しないものの見掛け比重を「密度0.13g/cm3より大きく0.40g/cm3より小さく」調整することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

甲2に記載されたフリーズドライの抹茶は、「スプーン一杯(2.3g)で紅茶茶椀一杯分(170c.c.)の紅茶飲料を調製する」ことを前提としないものであるから、甲2に記載された事項を考慮しても、相違点2及び3に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。